現場安全の技術
―ノンテクニカルスキル・ガイドブック
運輸、建設、医療、サービス、プラント制御などの現場スタッフが、ヒューマンエラーを避け、安全を確保していくために持つべき状況認識、コミュニケーション、リーダーシップ、疲労管理などからなる「ノンテクニカルスキル」について、安全管理の実務の立場から詳述。この領域の標準教科書として世界中で利用されている良書。
[2013年9月、2版発行]
書籍データ
発行年月 | 2012年2月 |
判型 | A5 |
ページ数 | 432ページ |
定価 | 4,290円(税込) |
ISBNコード | 978-4-303-72996-7 |
概要
2011年3月11日に起きた東日本大震災は、我々に強い衝撃を与えた。地震とそれに伴う津波により多くの人命が失われ、また東京電力福島第一原子力発電所の原子力災害は、環境に対して甚大な影響を与え、多数の住民に苦難を強いている。一方で、この震災においては、列車運転士の判断により津波到達前に乗客を安全な地域に誘導したなど、多くの現場判断により被害が最小限に食い止められた例も報告されている。また先の発電所においては、事態収拾に向けての現場員の献身的な努力が事故直後から日々続いており、これからも長期にわたってそうしたチームで働く人々の力に頼らなくてはならないと考えられる。
こうした大災害のときだけではなく、産業現場では、「気づき」「コミュニケーション」「チームワーク」などのいわゆる現場力により、安全が保たれ、一方で事故が起こっている。とりわけ、運輸、建設、医療、サービス、プラント制御・保守など、業務対象や業務を取り巻く状況が変動する現場においては、その変動を察知、判断し、チームで的確に対応する力が、安全や品質に大きな影響を与えている。産業現場だけではなく、私たちの日常生活においても同じだろう。雲行きに気づいて洗濯物を取り込んだり、一方でコミュニケーションが足りずに待ち合わせに失敗したりなど、日々の暮らしを振り返ってみると思い当たることは多い。つまり、こうした人々の力は、安全に対して表裏の結果を与えるものであり、力が足りれば事故は回避されるが、足りなければ大きな事故を招くことにもなる。
しばしば、「安全は最後は人だよね」といわれるが、まさにそのとおりであり、この「人だよね」を核として支えるスキルに、本書で扱われる“ノンテクニカルスキル”がある。
ノンテクニカルスキルは、テクニカルスキル(業務に直結した専門知識や技量)に対する言葉であり、「状況認識」「コミュニケーション」「リーダーシップ」「疲労管理」など、ヒューマンエラーを避け、安全を確保していくための現場スタッフが持つべきスキルである。ノンテクニカルスキルの草分けは、航空機の運航乗務員らにおいて発展してきたCRM(crew resource management)スキルであり、状況が時々刻々変化するなかでチーム(クルー)として文字どおり力を合わせて安全を保つために運航乗務員が持つべきスキルとして発達してきたものである(なお、CRMスキルとノンテクニカルスキルはイコールではなく、CRMスキルはノンテクニカルスキルの一形態である)。
本書“Safety at the Sharp End: A Guide to Non-Technical Skills”は、「人に頼る」現場で、現場スタッフが持つべきノンテクニカルスキルについて安全管理の実務の立場から詳しく述べた良書であり、この領域の標準教科書として世界中で利用されている。日本においても、本書はこれからの現場の安全において、大いに参考となるものと思う。読者の皆様の各現場において、ぜひ活用していただきたい。(「訳者まえがき」より抜粋)
目次
第1章 序 論
1.1 航空におけるノンテクニカルスキルに起因した事故とその後
1.2 航空におけるノンテクニカルスキルの特定と訓練、そしてその後
1.3 なぜ、本書を著したか
1.4 本書は何であり、何ではないか
1.5 本書の概要
第2章 状況認識
2.1 状況認識と安全
2.2 大脳の情報処理
2.3 長期記憶
2.4 状況認識のモデル
2.5 レベル1:情報の収集
2.6 レベル2:情報の解釈
2.7 レベル3:将来状態の予測
2.8 状況認識に影響を与える要因
2.9 状況認識の訓練
2.10 状況認識の維持
2.11 状況認識の評価
第3章 意思決定
3.1 意思決定と安全
3.2 自然主義的意思決定(NDM)
3.3 意思決定モデル
3.4 意思決定戦略の要約
3.5 意思決定に影響を及ぼす要因
3.6 意思決定能力を訓練する
3.7 意思決定能力を評価する
第4章 コミュニケーション
4.1 コミュニケーションモデル
4.2 コミュニケーションのタイプ
4.3 書面によるコミュニケーション
4.4 遠隔コミュニケーション
4.5 コミュニケーションにおける障害
4.6 チーム内のコミュニケーションをより良くするための推奨事項
4.7 ブリーフィング
4.8 コミュニケーションの訓練と評価
第5章 チーム作業
5.1 チームとは何か
5.2 チーム作業の要素
5.3 何が良いチームを作るのか
5.4 事故につながるチーム作業の問題
5.5 チームの発達段階
5.6 チームの有効性
5.7 チームの意思決定
5.8 チーム作業とストレス
5.9 チーム作業を訓練すること
5.10 チーム作業を評価すること
第6章 リーダーシップ
6.1 リーダーシップと安全
6.2 リーダーシップのスキルとは何か
6.3 リーダーシップ理論
6.4 ストレス下でのリーダーシップ
6.5 フォロワーシップ
6.6 リーダーシップスキルの訓練
6.7 リーダーシップスキルの評価
第7章 ストレスマネジメント
7.1 ストレスの理論
7.2 慢性的なストレス
7.3 防止
7.4 急性ストレス
7.5 急性ストレスの影響
7.6 急性ストレスの予防
第8章 疲労への対処
8.1 定義
8.2 疲労と事故
8.3 疲労からの回復:睡眠
8.4 睡眠調整
8.5 交代制勤務
8.6 疲労への対応策
第9章 ノンテクニカルスキルの中身を決める
9.1 発生事象分析法
9.2 質問法
9.3 心理尺度構成法
9.4 アンケート
9.5 観察法
9.6 複数技法の組み合わせ
第10章 ノンテクニカルスキルの訓練手法
10.1 訓練のフレームワーク
10.2 その他の考慮すべき問題
第11章 ノンテクニカルスキルの評価・判定
11.1 テキサス大学(UT)行動指標の起源と発展
11.2 行動格付け評価システムをデザインする
11.3 行動格付け評価システム:心理測定上の特性
11.4 行動格付け評価システムの利用
11.5 正式な評価・判定
11.6 実務におけるノンテクニカルスキル評価・判定
付録