商船教育時評
―現場からの報告
商船学校が百数十年にわたり築き上げてきた「海」を場とする特色ある教育の中に、混迷する現代教育に対する一筋の光明が見出せる。本書は、海洋の魅力溢れる商船学校の創造を目指し、30年間教育指導に取り組んできた一人の教員の述懐。
書籍データ
発行年月 | 2000年12月 |
判型 | 四六 |
ページ数 | 224ページ |
定価 | 1,980円(税込) |
ISBNコード | 978-4-303-11510-4 |
概要
「独立行政法人化」という嵐が文部省の教育研究機関に吹き荒れ始めている。商船大学や商船高専もその例外ではない。本書はこのような中で執筆・出版されるわけであるが、そのねらいはいくつかある。
第一は、商船大学や商船高専の現状がどのようになっているかを社会に広く知ってもらいたいということである。改善・改革論議の前提条件は、まずもって正しい現状認識からである。
第二は、21世紀を目前にして出現した「商船学校らしい」新機軸の紹介とその歴史的意義を説くことである。それは、高度経済成長終焉以後、わが国海運業の外国人船員の多用化路線が、商船大学・高専における教育研究の新しい方向性の模索を要請した結果の賜である。
そして、第三に、四面が海に囲まれているわが国の地理的条件を考えたとき、船員職業人の育成とともに「海洋市民の育成」は重要であり、その拠点こそが商船大学・高専であることを主張し、これからの商船教育政策の課題とされなければならないということである。
このような諸点を出来るだけ多くの人に理解してもらうために、かって(1996~97年)、(財)日本海事広報協会の旬刊誌『海上の友』に連載した「商船教育はいま」を本書の前半部分に加筆訂正して掲載した。商船高専の卒業生が、学生時代を回想するのにも役立つかも知れない。
後半部分の大半は、その現状を維持し、少しでも発展させるために、商船教育の現場で取り組んだ一高専教員の述懐レポートである。単なる特殊な実践報告に終わらないように、商船大学・高専の教職員はもとより、他の大学・高専における学生の教育指導のあり方や新しいカリキュラムの実践の仕方に参考となるような内容にしたつもりである。しかし、これは、いわゆるノウハウものではない。高等教育機関に在籍する学生一人一人の幸せを追求するには、現場教員だけの努力には限界があることにも随所で言及したつもりである。最後の第六章は商船教育史分析の結論部分を要約したもので、その詳細は筆者がすでに関係学会や関係各誌の中で発表しているもであるが、今後、それらは書籍の形で明らかにしたいと思っている。
30年にも及んだ富山商船高専での教育研究生活の中で、筆者の視点は常に、商船学とは何か?商船学生はいかにあるべきか?というところに置かれていた。本書はそれに対する答えの一部である。「真実は現場から始まって現場で終わる」という精神をこれからも貫きたいと思う。(「まえがき」より抜粋)
目次
第1章 いまどきの商船学生
・シーマンシップって何?
・あこがれの制服はいずこ
・寮生活指導教官
・仲間づくり支援
・スキー&ディベート合宿研修
・「育む」ことの難しさ
・学級担任
・マラソン中止署名活動
・卒業研究
・博士号を取得せよ
第2章 航海、機関学生の輝きと戸惑い
・チャレンジ精神健在
・親も子も輝く卒業式
・デッキとエンジンの違い
・海技試験に戸惑う
・船員制度近代化への期待と落胆
・盛りだくさんの要求
・長期航海実習への期待と不安
・航海訓練所へのさらなる期待
第3章 「商船学校」らしさの維持
・新練習船は誰のもの?
・新練習船の地域での役割
・PR航海
・学校見学会での苦労
・国際・海洋教育を商船教育の柱へ
・異文化圏交流の難しさ
・『ナホトカ号』事故の波紋
・『ナホトカ号』事故シンポジューム
・地域への貢献
第4章 「船員教育諸機関」の現状と変容
・海員学校と商船学校の競争
・商船高専と商船大学の競争
・商船学博士課程の誕生
・国際流通学科の誕生
・国際流通学科のキーポイント
・商船高専のビジョン
第5章 教育指導実践の記録
・全寮制度下の学級担任の奮戦
・学生主事の役割と苦悩
・商船学校的「ビジネススクール」への挑戦
第6章 商船教育の到達点とこれから
・国際流通学科誕生の意義
・商船学博士課程設立の意義
・商船教育のこれから