国際海運経済学
ミクロ経済学や国際経済学において共通の財産となっている静学的な諸理論や手法を用いて、便宜置籍船や外国人船員の雇用など、国際海運における諸問題を理論計量経済学的アプローチにより解説する。
[2004年2月、2版発行]
書籍データ
発行年月 | 2001年4月 |
判型 | A5 |
ページ数 | 224ページ |
定価 | 3,850円(税込) |
ISBNコード | 978-4-303-16400-3 |
概要
国際海運を取り巻く環境は、近年ますます大きな変化を遂げてきている。例えば、日本とアジア諸国の間での国際水平分業の進展などによって貿易構造が変化し、コンテナ物流の重心は日本から他のアジア諸国へとシフトするとともに、アジア船社が自国貨物の急増と安い人件費を背景にコンテナ定期部門を中心に急成長している。また、世界的な規模でのコンソーシアムの再編が進み、世界の定期航路は巨大なコンソーシアム間で競争が行われるという新たな大競争(メガ・コンペティション)時代に入っている。
日本では、日本籍船の国際競争力の低下によるフラッギング・アウト(日本籍船の海外流出)が進んだことによって、日本籍船が大幅に減少している。このことは、船社機能としての船舶保有はパナマ等の便宜置籍国に設立された子会社がその主体となり、船員配乗についてはフィリピン等に設立された配乗会社(マンニング会社)を通じて外国人船員の配乗が行われ、さらには管理部門までもが海外移転していることを意味し、日本の外航海運業は「空洞化」あるいは「真空化」の状態に向かいつつあると言われている。
このような現状や問題について、これまで多くの研究において観念論的叙述法によって非計量的に論じられ、かつて筆者も『現代国際海運の諸問題』において海運企業内国際分業などについて論じた。しかし、このような問題を理論計量経済学的かつ体系的に論じた研究は極めて少なく、そればかりか国際海運に関する研究への理論計量経済学的なアプローチそのものがわが国では伝統的に非常に少ないのが現状である。
そのため、ミクロ経済学や国際経済学において共通の財産となっている静学的な諸理論や手法をもちいて、船舶の便宜置籍や外国人船員の雇用など国際海運における諸問題の理論計量経済学的なアプローチによる解説を試みたものが本書である。そのため、本書はミクロ経済学の伝統である「市場メカニズムがなぜ好ましい資源配分を行えるのか」という視点からの解説と論述に終始し、結果として問題の本質を見失っている可能性があることは否定できない。また、できるだけ多くの読者に理解していただくために、数学の使用を極力避けてグラフを多用し、さらにはミクロ経済学によくみられる抽象的な表現を回避し、問題を明確化するために主要な論題についてはA国やB国という表現に替えて先進国や途上国などの表現をもちいている。(「はじめに」より)
目次
序章 海運と海運市場の概要
[1] 貿易と国際海運
[2] 海運市場の特殊性
第1章 貿易量と海運需要量の決定の理論
[1] 部分均衡分析による貿易量の決定
[2] 輸送費と海運需要量の決定
[3] 輸送距離と海運需要量の決定
第2章 海運需要と自国海運の育成の理論
[1] 一般均衡分析による貿易量の決定
[2] 海運需要と輸送費の意義
[3] 海運業と海運の輸出の意義
第3章 海運供給量の決定と規模の経済性の理論
[1] 世界海運市場と世界運賃
[2] 海運供給量の増大と国民所得
[3] 規模の経済性と海運の国際取引
第4章 海運保護政策の理論
[1] 自国海運の育成と運航補助金政策
[2] 外国船の使用抑制と差別課徴政策
[3] 自国海運の保護と積荷割当政策
第5章 便宜置籍船と海運資本輸出の理論
[1] 海運と海運資本の輸入
[2] 海運の輸出と船舶の便宜置籍
[3] 便宜置籍国と海運資本の輸入
第6章 海運資本輸出と過剰資本の理論
[1] 海運資本輸出入の自由化の利益と分配効果
[2] 海運資本輸出の規制効果
[3] 海運資本輸出の所得分配効果
第7章 外国人船員雇用の理論
[1] 外国人船員の雇用自由化の利益と分配効果
[2] 外国人船員雇用の規制効果
[3] 外国人船員の雇用と所得分配効果
[4] 海運資本輸出規制と外国人船員雇用規制の比較
第8章 過剰船員の発生と過剰船員対策の理論
[1] 船舶の技術進歩と船員労働の生産性
[2] 船舶の便宜置籍と外国人船員雇用の誘因
[3] 先進国における船員労働の輸出
[4] 先進国における船員労働の派遣と労務提供
第9章 海運自由化の最適性の理論
[1] 資源の効率的配分
[2] 海運自由化の最適性
[3] 海運における完全競争と市場の失敗