デザイン知財マネジメント
―デザイナーのための知的財産立国入門
知的財産発展途上国であった日本が迎えようとしている知的財産立国の時代に、インダストリアルデザイナーはどのような役割を果たしうるのか。40年間にわたり企業と大学でデザインと意匠権に携わってきた著者が、デザイン知財の核とも言うべき意匠権を柱とした工業所有権活用の戦略的手法を解説した、異色のデザイン実務書。
書籍データ
発行年月 | 2004年2月 |
判型 | A5 |
ページ数 | 200ページ |
定価 | 2,530円(税込) |
ISBNコード | 978-4-303-72735-2 |
概要
先進諸国の中でも、わが国ほど知的財産権に関して関心と理解が乏しく、また遅れをとっている国は他にないと言ってよい。欧州に比べて30年、米国には20年の遅れをとっていると言われる。しかし、その“知的財産発展途上国”がようやく本腰を入れて知的財産権に取り組み始めた。誠に喜ばしいことである。そういった意味では、2002年7月に策定された「知的財産戦略大綱」に基づいて、知的財産戦略本部が具体的な政策目標を示す「知的財産推進計画」を決定した2003年7月8日は、わが国にとって記念すべき日と言ってよいであろう。その間、約1年間というスピーディさであった。この背景には、知的財産権を遵守するという本来的な意味よりも、むしろ、知的財産権で産業競争力を強化することによって国際競争力を向上させ、近年低迷している日本経済を再生させていこうとする考えのほうが強い。
バブル経済が崩壊した後、1990年代へ入ってからの日本経済の成長率は著しく鈍化し、OECD諸国全体の成長率を大きく下回っている。これに反し、米国は見事なまでに経済復興を果たし、また一方では追い上げる中国が日本の20分の1とも言われる低廉な労働コストを武器に世界諸国の工場として機能し、年々高度経済成長を遂げてきている。この両国に代表される国際経済状況にあって、わが国が産業競争力を回復し、国際競争に打ち勝っていくには、高度な「ものづくり」の力とともに技術やデザインの知的財産権がいわばとっておきの切り札と言えるのである。
そして、日本固有の精神性豊かな伝統文化に根ざし、また同時に先端的な時代感覚と国際感覚を備えたみずみずしい日本人の美意識と感性が、今後、世界の中で注目され、産業界で高い評価を得ていくであろうことに期待がかかっているのである。このことはすでに、米国アカデミー賞を受賞した宮崎駿のアニメ『千と千尋の神隠し』などの特例を見るまでもなく、メイド・イン・ジャパン、そしてデザインド・イン・ジャパンの自動車や電気製品などが世界各国で注目を集め、人気を博していることからも容易に想像できよう。ここで言う製品とは、技術やデザインのほか商品コンセプト、価格、ブランド、フィーチャーなどの総体により形成される顧客受容価値を意味している。
知的財産権は、人間が生み出す技術、デザイン、コンテンツなどのさまざまなアイデアや創作物を法的に保護するものであるが、従来、技術至上主義と言える工業化社会にあっては、どうしても技術を対象とする特許権に多くの関心が向けられる傾向が強かった。しかし、時代の重心は工業化社会から情報化社会へと大きくシフトし、人間が生み出すアイデアや創作物は「もの」だけでは捕捉できない時代になってきているし、社会と生活者が求める価値そのものの本質が変わりつつある。
政府の知的財産戦略本部が決定した「知的財産推進計画」は、このような時代の変化を十分捉えた上で、知的財産権の創造、保護、活用、拡大、人材育成の各章から構成された戦略計画である。国を挙げての知的財産権重視の、この大きな時代変革のうねりの中で、デザインという知的財産価値を生み出すデザイナーはどのように掉さすことができるのだろうか。
わが国においては、おおよそ1950年代に形態と色彩のプロフェッショナルとしてインダストリアルデザイナーが産業界に登場し、当初は材料や構造を含めた設計と生産活動に参画した。それ以来、時代の進展とともに、営業やマーケティングの分野へ、また企画の重要なメンバーとして、さらに近年では経営にタッチするまでに専門能力(職能)を高めてきた。その活動範囲は、クリエーター、プランナー、コーディネーター、またプロデューサーなどの広域にわたっており、デザイナーが有するイメージ思考力とイメージ形成力とともに変化への対応力とコンセプト・メーキングによる価値創造力は、経営をサポートする有力な戦力となっている。このような能力を持つデザイナーは、わが国が迎えようとしている知的財産立国の時代に、経営や社会への貢献度をより高めるためには、知的財産価値の高いデザインを生み出すこと以外にどのような役割を果たしうるであろうか。デザイン知財の核とも言うべき意匠権、とくに意匠登録出願の戦略性を中心にして、いくつかの視点から考察を進めていくこととする。
これまで40年間にわたって、企業においてインダストリアルデザインと意匠権管理を担当し、また、大学へ転じてからはデザインマネジメントと意匠登録出願の戦略的構造について研究してきた筆者の知識と思索の一端を披瀝する本書が、将来の知的財産立国へ向けて多少なりとも読者の参考に供するところがあれば望外の幸せである。(「まえがき」より)
目次
第1章 知的財産立国への動き
第2章 デザイン知財の意味
第3章 インダストリアルデザイナーの変遷史
第4章 事業競争力とインダストリアルデザイン
第5章 インダストリアルデザインと意匠権
第6章 企業における意匠権管理の戦略特性
第7章 意匠公報にみる意匠登録出願戦略事例
第8章 市場競争ポジションと意匠登録出願戦略
第9章 意匠登録出願の戦術手法
第10章 デザイン知財マネジメントとそのスタイル