観光と地域再生
地方再生には観光による交流人口増加策が必須であることを根底に、NPO法人・観光情報学会副会長を編者として、アジア圏交流、観光と女性、観光マーケティング、地産地消による地域活性化、地場産業とフードツーリズム、地域文化情報のデジタルアーカイブ化、観光市場の変遷、携帯電話による観光情報収集などについて解説する。
書籍データ
発行年月 | 2010年4月 |
判型 | A5 |
ページ数 | 176ページ |
定価 | 2,420円(税込) |
ISBNコード | ISBN978-4-303-56310-3 |
概要
人、物、金、情報の一極集中化により、さまざまな弊害が派生している。便利さのみを追求し都市部に人が集まっている。これでは都市部のみ活力があるが、日本全体としては冷え込む。人が集中し各種のインフラが整備された都会は便利な環境だが、一方で地方は忘れ去られ格差社会が生まれる。格差社会は決して日本の発展につながらない。地方は木の“根”に相当し、幹や小枝・葉が成長する源である。活力を失うと遅かれ早かれその影響が都市部に及び、日本全体が枯死する。一極集中現象を一時的なものとして捉えることは重大な間違いである。格差社会はスパイラル状に進行し、元に戻すには計り知れない人的エネルギーが必要となる。地方も都市も同時に活性化する方策が必要である。
一極集中や格差社会は環境問題や食糧問題など一国に留まらない問題を誘引する。その意味で日本は最も厳しい状況にあるといえる。地方衰退の大きな原因は、農業、林業、漁業である第一次産業の退歩による。第二次産業も衰退し、多くは第三次産業に従事するきらいがある。一方で都市部は派遣労働など厳しい労働環境によるストレス社会を迎え、失業率も高い。このような社会環境の中、多くの人は高額なサラリーを求めているのではなく、ほどほどの賃金と精神的に豊かな生活を求め地方に目を向け始めている。ただ地方にはサラリーを得る生業がないのである。一方で団塊世代である高齢者は農業に興味を持ち、作る喜びと癒しを求め地方に興味を示している。団塊世代による地方体験訪問が期待できる。農業体験などグリーンツーリズムの提供が端緒となる。団塊世代をはじめとする高齢者が訪問しやすい「環境」と「システム」を構築することにより、地方活性化の糸口が得られる。その情報発信が重要である。ごくわずかであるが訪問者の一部が定住者になる。これにより日本の食料自給率や環境問題軽減の端緒が得られる。
本書は、地方の深刻な問題である限界集落や、地方への国際観光客増加について述べている。地方の付加価値をアピールするにはインターネットなどITの駆使は必須である。とくに、地方における観光交流には情報技術の応用は避けて通れない。2003年に観光情報学会が設立され、現在、NPO法人として活動している。観光産業発展のために情報分野から地方資源も含め学術的にサポートするものである。このような状況を鑑み本書を構成した。第1章においては、観光交流による地方活性化の必要性と、その波及効果について述べている。第2章では、日本の国際観光はアジア地域を重視すべきであるとの観点から、韓国、台湾、中国、香港、タイを主として取り上げている。第3章では、今後の観光産業において女性の役割は重要であり、観光における女性イメージの変遷について観光史の立場からまとめている。第4章では、無形財である観光マーケティングの概念として市場細分化および戦略について詳述している。第5章では、環境問題や食糧問題を軽減する一つの方策として限界集落の活性化を挙げている。第6章では、地産地消が地域経済活性化の糸口であるとの視点から、事例研究に基づきまとめている。第7章では、長野県塩尻市のフード・ツーリズムとしてワインを取り上げた行政などの取り組みについてまとめている。第8章では、固有の遺産や伝統文化のデジタルアーカイブ化を介して魅力や歴史を再発見することによる地域活性化や観光客誘致について論じている。第9章では、観光産業の起こりからパッケージツアー、旅行サイト活用までの変遷をまとめている。第10章では、石川県山中温泉での事例研究として、携帯端末を有効に活用した観光者動向情報収集システムについて述べている。
以上、地方再生には交流人口増加策が必須であることを根底に述べている。とくにアジア圏からの増加策が必須である。観光PRにはパンフレットや旅行代理店などの活用のみを考えていたのではコストと時間がかかり過ぎる。Webなど、すぐにアップデイトできる情報発信可能なツールの活用が必要不可欠である。地方には資源があるが資金がない。Webによる情報発信は、京都や奈良、東京などの有名地も田舎も平等である。誰の目にも平等に留まる。今後、観光産業における情報技術の応用はますます増加し、主流になり、分散化する傾向にある。(「はじめに」より抜粋)
目次
第1章 観光交流による地方活性化(大薮 多可志)
1.1 社会環境と観光
1.2 グリーンツーリズムによる地方活性化
1.3 発地型観光から着地型観光へ
1.4 地方交流人口増加策
1.5 学術機関の参画
第2章 アジア圏交流(川島 哲)
2.1 東アジア地域の観光
2.2 世界の国際観光の動向
2.3 アジア・太平洋地域
2.4 訪日外国人旅行者(インバウンド)
2.5 各国の傾向
2.6 今後の展望と課題
第3章 観光にみる女性イメージの変遷(工藤 泰子)
3.1 ジェンダーと観光
3.2 女性に向けるまなざし―観られる女性―
3.3 観光者としての女性
3.4 むすびにかえて
第4章 観光とマーケティング(方 斌)
4.1 観光マーケティングの概念
4.2 観光におけるマーケティングミックス
4.3 観光マーケティング戦略
第5章 日本の限界集落(大薮 多可志)
5.1 限界集落
5.2 限界集落の活用
第6章 地産地消と地域経済の活性化(安藤 信雄)
6.1 地域が直面する課題
6.2 市場メカニズムによる地域経済活性化の経済学
6.3 環境問題と地域経済の活性化
6.4 情報の非対称性と市場メカニズム
6.5 食料自給率と安全保障問題
6.6 食料安全保障
6.7 地産地消と経済活性化
6.8 まとめ
第7章 地場産業とフード・ツーリズム(中島 恵)
7.1 はじめに
7.2 長野県塩尻市の概要
7.3 フィールドワーク
7.4 まとめ
第8章 デジタル・アーカイブ化を用いた地域文化情報(橋本 恵子)
8.1 デジタル・アーカイブとは
8.2 デジタル・アーカイブの新たな展開
8.3 住民参加型のデジタル・アーカイブ
8.4 地域発のデジタル・アーカイブ活動
8.5 地域文化情報の創造・保護・管理・流通
8.6 GMICを使用した画像編集の実際
8.7 協働でデジタル・アーカイブを作成する過程
8.8 デジタル・アーカイブ化の問題点
8.9 デジタル・アーカイブ化で観光地・観光資源の有効活用
第9章 変化する観光市場(佐藤 有良)
9.1 近代旅行業の始まり
9.2 現代日本の観光とその変化
第10章 携帯電話を用いた観光情報収集(大薮 多可志)
10.1 日本の観光情報
10.2 観光者推移
10.3 観光情報システム例
10.4 まとめ