笑顔あふれるエコ・タウンの創造

―実験プロジェクトEco-Viikki―

宇治川正人・吉崎恵子 共著

フィンランド政府環境省とヘルシンキ市都市計画局が中心となり、エコでサスティナブルな住宅を作る技術の確立を目指して開発した住宅地「エコ・ヴィーッキ」。本書は現地調査、インタビューも行った著者が、その全てを紹介。「森の民」と呼ばれるフィンランド人の壮大なエコプロジェクトが地球時代の新しい住環境を創造する。

書籍データ

発行年月 2013年5月
判型 A5
ページ数 222ページ
定価 2,640円(税込)
ISBNコード 978-4-303-71210-5

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概要

北欧のフィンランドの首都ヘルシンキ、その中心部から北東に8キロメートル離れた地点に「エコ・ヴィーッキ」と呼ばれる住宅地がある。その住宅地は、エコロジカルでサスティナブルな住宅を作る技術を確立するために、1994年からフィンランド政府環境省とヘルシンキ市都市計画局が中心となって開発し、2003年に完成した。803戸の住宅があり、およそ1700人が暮らしている。

筆者は、このプロジェクトの存在を国土交通省の方から教えていただき、集合住宅の技術開発を進める社団法人新都市ハウジング協会の広報誌ANUHTの編集に携わっていた2010年の秋に、概要を同誌に紹介した。当時、国内に関連文献は皆無であった。資料を調べているうちに、エコロジーの原点に対する真摯な検討とそれに基づいた住環境のクライテリア(基準)の作成、計画段階と設計段階に行われた2回のコンペティション、「グリーンフィンガーズ」という計画概念、綿密なモニタリング調査の実施など、プロジェクトの様々な側面に感銘を受けた。

そこで、このプロジェクトのことを詳しく調べようと思い、幸い、フィンランド政府環境省やヘルシンキ市都市計画局の協力が得られたので、翌年に現地の踏査および関係者のインタビュー調査を実施した。

足を踏み入れてみると、実際の住宅地は市民農園と住宅地が合体したようなユニークな住宅地であった。住宅は低層のテラスハウスと中層の集合住宅を主体としており、1つの住区の中のデザインは統一されているが、全体としてはバリエーションに富んでいる。また、周辺には公園や農場が広がり、緑豊かな環境の中で、ピクニックやサイクリング、農園での耕作を楽しんでいる人々に数多く出会った。居住者層としては比較的若い世代が多く、乳母車を押したり、幼児の手を引きながら歩いている人々を多数見かけた。それらの人々から話を聞いてみると、誰もが住環境には大変満足していた。エコロジーの追究が笑顔あふれる楽園の実現に結びついたことは意外だった。

このプロジェクトを担当したリーダーたちは、未経験の新しい領域のプロジェクトに対し、従来のプロジェクトの進め方を白紙に戻し、自分たちでそれを組み立てていった。いきなり汚染物質の排出量や省エネルギー性能を検討するのではなく、多くの頭脳を結集させながら、エコロジー社会とは何かを問うことから始め、そのエコロジー社会を作る手段としての住宅のあるべき姿を追い求めた。筆者は、それこそがエコロジカルな実験的住宅開発プロジェクトを楽園の建設たらしめた最大の要因ではなかったかと考えている。

本書は、この町をどのように作ったのか、できあがったのはどんな町なのか、なぜエコロジーが笑顔につながるのかということを主題にとりまとめたものである。

本書の構成は、準備から、計画・設計・建設、入居とモニタリング調査へとプロジェクトの時間軸に沿わせた。その内容は、地球環境問題、都市計画、建築計画、設備設計、構造力学、居住者心理など非常に広範な領域に関わっている。関連する資料を前に、筆者の能力の限界を幾度となく感じさせられた。それでも本書を完成させることができたのは、プロジェクトに関わった多くの方々と、エコ・ヴィーッキの居住者の目の輝きに励まされたからである。

文明史上、異種文化の出会いは新しい文化を育んできた。「森の民」と呼ばれ、自然との関わりを重視するフィンランドの人々の経験や知識と、その建築やプロジェクトに対する姿勢は、日本の建築や住宅計画にも刺激を与え、地球時代の新しい住環境の創造に資するに違いない。 (「まえがき」より抜粋)

目次

第1章 エコ・コミュニティプロジェクト
     1 サスティナブルデベロップメント
     2 へルシンキ市ヴィーッキ地区
     3 エコ・コミュニティプロジェクト始動
     4 ヘルシンキ市の都市計画の仕組み
     【エピソード】世界一のCHP都市

第2章 2つのコンペティション
     1 都市計画コンペティション
     2 設計コンペティション
     【エピソード】賞金ハンター

第3章 クライテリア
     1 エコロジカルさを測る基準
     2 ピンバグメソッド
     【エピソード】夏の家(ケサ・コティ)

第4章 ガイドライン
     1 ガイドラインの内容
     2 着工に向けて
     【エピソード】寿命工学

第5章 誕生した町
     1 完成した姿
     2 北地区
     3 西地区
     4 南地区
     5 周辺の施設
     6 サイエンスパーク
     7 太陽エネルギー利用技術

第6章 モニタリング
     1 居住者像
     2 モニタリング調査結果
     3 セルフビルド住宅のエネルギー等消費量
     4 居住者の声
     5 ソーラーシステム
     【エピソード】フィンランドサウナ協会

第7章 エコ・ヴィーッキの意義
     1 どんな成果が得られたか
     2 どんな意義があったか
     3 そこは楽園だった
     4 私たちは何を学ぶべきか
     【エピソード】夢無きところ民滅ぶ