アジアの隠れた文化
―乗り物に見るアジアの真実
乗り物に見られるアジアの隠れた文化を、とくに韓国、タイ、ベトナム、中国、台湾、香港、シンガポールを取り上げて、国や地域別に紹介し、その特徴は何か、なぜそのような文化が形成されたのか、どうして定着したのかについて、政治と経済の視点から解説する。
書籍データ
発行年月 | 2014年8月 |
判型 | 四六 |
ページ数 | 198ページ |
定価 | 1,650円(税込) |
ISBNコード | 978-4-303-16403-4 |
概要
文化には直接的に知覚できるものと、できないものがあり、前者は顕在的文化、後者は文化の基層部に潜む「隠れた文化」あるいは基層的文化と呼ばれ、隠れた文化には古い伝統や慣習が強く残っているとされています。隠れた文化は、一般に知られていない文化を意味することもあれば、意図的に隠されている文化を指す場合もあります。いずれにしても、隠れた文化は現地に行って観察することによって初めて知ることのできる文化です。
文化の構成要素は、言語、価値、社会関係、技術の4分野に大別され、それぞれの分野は独自の機能と相対的な自律性を保つと同時に、互いに関連を保ちつつ補足しあい、一つの全体としてのまとまりを形成しているとされています。言語は、独自の機能と相対的な自律性を最も強く保ち、他の分野からの影響を最も受けにくいとされ、価値(道徳、思想、宗教、自然観、価値観など)は人間の内面に関わるため人間のすべての行動の方向性を決定するとされています。社会関係(慣習、制度、法律など)は他の分野との関わりが大きく、技術は経済活動などに関係していると言われています。文化を象徴するアジアの民族言語は、一部の国々では消滅する可能性があると言われ、それは戦後に欧米先進国を模倣するために民族言語を捨てて英語を公用語に指定した国もあれば、グローバル化の名の下に小学校の低学年から英語を教えようとしている国もあるからです。
他方、文化に優劣はありませんが、かつてアジアの植民地時代には「優等人種である白人が劣等人種である非白人に文明を与えるのは義務である」「優れた白人が劣った有色人種を征服することは自然の摂理である」として、西洋文化や白人文化が優れたもので、アジアの文化は劣ったものとされていました。この西洋的価値観が植民地時代にアジアの文化を破壊し、また西洋文化が国際儀礼として標準化されたために自主的に自国の伝統的な文化が捨てられ、このようにして破壊された文化や捨てられた文化が隠された文化と言われることもあります。
国際的な規範や道徳などの観点から他国民には理解できない文化があり、そのような文化は国際的な批判の対象にされることがあります。それは一般的には、西洋の価値観の押しつけという形で表れ、現在でも文化の基準は西洋の価値観にあると言われています。言い換えれば、植民地時代の西洋文化や白人文化の優位性がアジアの人々の心に植えつけられ、現在では無意識のうちに西洋文化や白人文化を称賛するようになっています。かつてコカコーラは、アメリカ文化の象徴と同時にアメリカ帝国主義の先兵と見做され、戦後には資本主義の象徴とされていました。世界中にアメリカ文化が浸透していく様子を表現する「コカコーラニゼーション」という言葉も生まれ、東欧や中東ではコカコーラ排斥運動が起きたと言われています。
本書では、乗り物という観点から、つまり乗り物に見られるアジアの隠れた文化を国別に紹介し、その特徴は何か、なぜそのような文化が形成されたのか、どうして定着したのかについて政治と経済の視点から解説しています。なぜ乗り物なのかと言えば、乗り物にも文化があるからです。隠れた文化の中には日本人には道徳的に理解しがたいものがあり、それについては批判的な記述が行われている個所もあることを予めお断りしておきます。(「はじめに」より抜粋)
目次
1 アジア
西洋の文化とアジアの文化
宗教文化
政治文化と所得格差
汚職と賄賂文化
鉄道と模倣文化
アジア的貧困と外国人料金
自家用乗用車と貧富の差
三輪自転車タクシーと貧困文化
二輪車の一大文化圏
三輪自動車とアジア文化
2 韓国
韓国の経済と交通
高速バスと優等文化
市外バスと差別文化
観光バスと事大主義
優等列車と国民性
地下鉄と反日文化
空港鉄道と賄賂文化
高速鉄道KTXと恨みの文化
KTXの安全性と手抜き文化
財閥支配と権威主義文化
3 タイ
タイの経済と交通
モーターサイと捨の心
ソンテオと運賃交渉制
バスと慈の心
運河交通と仏教文化
乗合船と労働観
水上マーケットと文化の商業化
サムローと三輪車文化
トゥクトゥク文化
トゥクトゥクと貧富の差
4 ベトナム
ベトナムの経済と交通
農村社会と男尊女卑文化
ムラ社会の共同体文化
路線バスと汚職文化
シクロと貧富の差
スーパーカブ文化と現実主義
家族主義文化と恐妻家
排外文化と外国人料金
タクシーと妬みの文化
1国2文化と軽トラバス
5 中国
中国の経済と交通
公共バスと大気汚染
連節トロリーバスと戸籍制度
タクシーと偽物文化
人治国家と人力三輪車
三輪車文化と階級格差
三輪自動車と経済重視文化
長距離列車と農民蔑視
地下鉄と賄賂文化
高速鉄道と奴性文化
6 台湾
台湾の経済と交通
鉄道と儒教と賄賂文化
對號列車と易姓革命思想
都市高速鉄道と中国式汚職
高速鉄道と人命軽視
豪華バスと負けず嫌い文化
タクシーと自己中文化
スクーターと交通文化
スクーター文化の光と陰
自転車文化と環境意識
7 香港
香港の経済と交通
2階建てトラムと向空中文化
ピークトラムとイギリス階級社会
ヒルサイド・エスカレータと住民差別
イギリス文化と2階建てバス
ミニバスと中国風文化
イギリス風タクシーと縁起物
香港返還と文化の砂漠化
香港の中国化
地下鉄とスラム化
8 シンガポール
シンガポールの経済と交通
都市鉄道と厳罰主義
LRTと移民の管理・制御
路線バスと超多民族文化
自家用車抑制と交通管理
タクシーと交通管理社会
ダックツアーと欧米風文化
観光開発と汚職の撲滅
環境保全と民族的迷信
文化の創生・保存と国家資本主義