基礎から学ぶ

クルーズビジネス

池田良穂 著

「クルーズとは」から始め、クルーズの歴史、クルーズマーケット、クルーズ客船のハードとソフト等について、クルーズ学の第一人者である著者が、わかりやすく解説。クルーズビジネスの現状を学べる。豊富な写真と貴重な資料を随所に掲載し、巻末の事例研究では、日本のクルーズ、海外のクルーズそれぞれを紹介。

書籍データ

発行年月 2018年4月
判型 B5
ページ数 216ページ
定価 3,080円(税込)
ISBNコード 978-4-303-16412-6

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概要

 かつて人を運ぶ客船は海運の花形でした。大西洋や太平洋を横断する航路には,各国が威信をかけて建造した大型客船が就航していました。こうした客船は,単に人の輸送というだけでなく,人々の夢も運ぶ憧れの存在でした。
 しかし,日本からヨーロッパまで客船で行くと1ヶ月以上もかかりました。この船の最大の欠点である「遅いスピード」を一気に解消したのが飛行機です。船で行く1日が,飛行機では1時間にまで短縮されました。飛行機が世界中を結ぶようになって,長距離の航路に就航する大型客船は次々と姿を消しました。1960年代から1970年代のことです。
 こうして長距離の旅客輸送という舞台から消えた客船が,クルーズという客船による周遊旅行の分野で復活を遂げて,今では巨大な海事産業に成長しています。1970年代初めには,わずか50万人だったクルーズ客船の乗客は,2016年には2,500万人あまりに達し,産業規模は約14兆円になっています。この経済規模は,貨物輸送の花形であるコンテナ船の約20兆円に迫る大きさです。貨物船のビジネスは世界の経済成長にほぼ比例して拡大していますが,クルーズはそれよりもはるかに高い成長率で,世界中で拡大しています。海事産業の中で,唯一,需要が急拡大している成長分野です。使用される船は急速に大型化されて,もっとも大きなクルーズ客船は,23万総トンで,6,000人もの乗客を乗せ,2,000人もの乗組員によって運航されています。この船は,かつて大洋を横断していた最大の客船の3倍もの大きさです。東京駅より長く,3倍以上の高さがある巨大な建造物が,海の上を走っているのです。
 さて,クルーズビジネスは,人や貨物を運ぶ海運業というよりは,人を楽しませる観光業といった方がよいでしょう。人々はクルーズ客船で観光地を巡るだけでなく,船上でも大いに楽しむようになりました。海上を移動中に,美味しい食事を堪能し,ショーを観たり,音楽を聴いたり,ショッピングを楽しみ,プールで泳ぎ,そしてカジノもできます。まさに,海上を移動しながら船上で楽しむ「動く統合型リゾート」なのです。
 この本は,クルーズのガイドブックではなく,クルーズというビジネスを学ぶための教科書です。2010年に神戸夙川学院大学の観光文化学部にクルーズコースが設置され,非常勤講師として「クルーズビジネス論」という授業を担当した時に書き下ろした教科書をベースとして,2018年から始まった大阪経済法科大学の国際学部の授業のために大幅に改訂したものです。
 本書では,クルーズの歴史,成長する現代クルーズの特徴,需要予測,経済性,使用される船のハードとソフト,港湾との関係について学べるようになっています。また,クルーズ客船に乗ったことのない読者でも,クルーズの楽しみ方を理解できるように,実際のクルーズで乗客に配られた資料をそのまま事例研究として掲載しています。これらの資料を使って,クルーズの疑似体験をすることができるようになっています。海外でのクルーズの資料は,英語の原文のまま掲載していますので,辞書を片手にクルーズの内容が理解できるまで読み込んでください。そして,なぜ,クルーズが世界中でブームになっているのか,その理由を見つけだしてください。

目次

はじめに

第1章 クルーズとは
 1.1 クルーズの定義
 1.2 定期客船との違い,他の交通機関との違い
 1.3 リゾートホテルとの相違点
 1.4 観光旅行の中での位置づけ
 1.5 クルーズ料金の特徴
 1.6 クルーズの内容
 1.7 クルーズ旅行の欠点

第2章 クルーズ発展史
 2.1 商業クルーズの発祥
 2.2 定期客船の終焉とクルーズへの進出
 2.3 現代クルーズの発祥―カリブ海に登場した新しいクルーズ
 2.4 伝統的クルーズの動向
 2.5 クルーズ客船の大型化とマーケットの爆発
 2.6 さらなる大型化の進展(第2次大型化)
 2.7 アラスカでのクルーズ
 2.8 現代クルーズの世界展開
 2.9 アジアのクルーズ
 2.10 現代クルーズの更なる大型化(第3次大型化)

第3章 日本のクルーズの歴史
 3.1 クルーズの発祥
 3.2 コーラル・プリンセス
 3.3 移民船廃止とクルーズ
 3.4 研修クルーズビジネス
 3.5 クルーズ元年
 3.6 海運大手のクルーズ進出
 3.7 日本のクルーズ市場
 3.8 販売システムの充実
 3.9 日本のクルーズ・マーケット爆発への処方箋

第4章 クルーズ・マーケット
 4.1 クルーズ・マーケットの分類
 4.2 世界のクルーズ・マーケット
 4.3 クルーズ・マーケットの構造
 4.4 ソースマーケット

第5章 クルーズビジネスの構成
 5.1 クルーズ運航会社
 5.2 マネジメント会社とマンニング会社
 5.3 販売代理店(GSA)
 5.4 クルーズ専門旅行会社
 5.5 クルーズアドバイザー認定制度
 5.6 業界団体
 5.7 クルーズの専門雑誌
 5.8 クルーズの国際会議

第6章 クルーズ客船のハード
 6.1 クルーズ客船の造船所
 6.2 コンセプト設計
 6.3 安全性
 6.4 建造過程
 6.5 乗り心地
 6.6 キャビン
 6.7 公室設備
 6.8 ダイニングルーム
 6.9 ギャレー
 6.10 船上での水
 6.11 空調
 6.12 船の推進
 6.12 資料:デッキプランと客室・レストラン

第7章 クルーズ客船のソフト
 7.1 船員構成
 7.2 各部門の守備範囲
 7.3 緊急時の船員の役割
 7.4 陸上との連携
 7.5 CIQ

第8章 クルーズ事業の経済性
 8.1 クルーズの運航コスト
 8.2 クルーズの損益分岐解析
 8.3 クルーズ客船の需要予測
 8.4 事例研究
 8.5 クルーズ産業の経済波及効果
 8.6 主要クルーズ運航会社の経営状況
 8.7 クルーズ産業の地域経済波及効果と観光公害

第9章 クルーズポート
 9.1 クルーズポート
 9.2 クルーズポートの条件
 9.3 港のハード機能
 9.4 クルーズ誘致活動と受入体制

第10章 写真で見るクルーズ客船の系譜
 10.1 1970年代
 10.2 1980年代
 10.3 1990年代
 10.4 2000年代
 10.5 2010年代

第11章 世界のクルーズ水域
 11.1 カリブ海クルーズ
 11.2 地中海クルーズ
 11.3 エーゲ海クルーズ
 11.4 北ヨーロッパクルーズ
 11.5 アラスカクルーズ
 11.6 バミューダ・北アメリカ東海岸クルーズ
 11.7 アジアクルーズ
 11.8 日本の定番クルーズ
 11.9 日本の離島クルーズ
 11.10 日本のショートクルーズ
 11.11 世界一周クルーズ
 11.11 資料:102日かけて巡る世界一周クルーズ

事例研究:「にっぽん丸」のクルーズ
事例研究:「フリーダム・オブ・ザ・シーズ」の1週間西カリブ海クルーズ

おわりに
索引

 コラム1 陸上のクルーズ
 コラム2 飛行機の登場
 コラム3 現代クルーズを育てた3社
 コラム4 クルーズだけを扱う旅行会社
 コラム5 日本の海運界の勘違い?
 コラム6 ピースボート
 コラム7 クルーズ客船のランキング
 コラム8 洋上大学船
 コラム9 分譲型クルーズ客船
 コラム10 もっともカボタージュの影響が大きいアメリカ
 コラム11 船員の肩章
 コラム12 ブリッジ
 コラム13 AHP法

プロフィール

池田良穂(いけだよしほ)

大阪府立大学名誉教授,大阪経済法科大学客員教授

船舶工学,海洋工学,クルーズビジネス等が専門。専門分野での学術研究だけでなく,船に関する啓蒙書を多数執筆し,雑誌等への寄稿,テレビ出演も多く,わかり易い解説で定評がある。