船舶金融論
―船舶に関する金融・経営・法の体系
(2訂版)
船舶(とりわけ外航商船)の建造あるいは購入にかかる必要資金を供給する船舶金融について、金融論、船主経営論、さらには海商法とも関連付けて体系化し、客観的かつ多面的に、そして実用的に、わかりやすく丁寧に解説した、船舶金融分野のバイブルともいえる一冊。
書籍データ
発行年月 | 2019年1月 |
判型 | A5上製 |
ページ数 | 328ページ |
定価 | 4,400円(税込) |
ISBNコード | 978-4-303-15031-0 |
概要
本書は船舶(とりわけ、外航商船)の建造あるいは購入にかかる必要資金を供給する「船舶金融」について解説するものであり、船舶金融に従事されている金融マンはもちろんのこと、船舶金融に些かでも興味を抱かれる有為なる学生の皆様、これから海事産業で活躍されるであろうフレッシュマンたち、既に海運実務に携わっておられる社会人諸氏、そして海事の分野を超えて広く金融ビジネスに関係する多くの方々に、何らかの有用な材料を提供することを目的としています。
実は、こうした企みは、わたし自身今回が初めてではありません。2007年11月に、『シップファイナンス―船舶金融概説』(海事プレス社)を上梓したのが最初です(2010年4月、増補改訂版)。おかげさまで、同書は船舶融資の入門書としてご評価いただきました。しかし、「概説」という性格のために個々のテーマに関して踏み込みきれていない箇所も多く、常々、内容をより深めたいと考えておりました。
そうこうするうち、2011年1月、わたしは金融機関から会計事務所に転籍することになりました。わたしには一大転機でしたが、日々船主の皆様の生の声を耳にすることで、「金融機関は船主経営のどこをみているのか」、「どこをどうすれば金融機関に評価されるのか」などのテーマについて考える契機になり、船舶金融について多面的に掘り下げる良い機会となりました。かかる視座は経営コンサルティングの論点であり、わたしはそれを、『船主経営の視座-税務・為替の手引』(海事プレス社)というタイトルで一冊の本にまとめました。
その後、早稲田大学の堀龍兒教授(現在はTMI総合法律事務所顧問・早稲田大学名誉教授)にお声掛けいただき、同大学海法研究所に設けられた船舶金融法研究会で船舶金融と法の接点について考える貴重な機会を頂戴しました。同研究会は海商法学者はじめ、海事専門の弁護士、船舶金融や海上保険の専門家、海運実務担当者といった方々で構成される研究会であり、その活動は、主宰者である堀教授の古稀祝賀論文集『船舶金融法の諸相』成文堂(2014年)で一応の成果をみることとなりました。
『船舶金融法の諸相』は船舶金融に関する法的論点をほぼ網羅する画期的な論文集である、と確信しております。わたし自身共同編集責任者を務めるとともに「船舶金融の発展的再定義」なる小論を寄稿しましたが、同書を編集する過程でもっと体系化できないものかと考えるようになりました。そうしたなか、堀教授の後任として、大学院法学研究科非常勤講師として船舶金融法研究講座を担当することになり、そのことが本書執筆の直接的な契機となりました。そして、それは、わたしの積年の思いを叶えるチャンスでもあったのです。
本書は、あくまでも船舶金融に関するテキストとして書き上げたつもりです。同分野に関連する事項をできるだけ網羅的に扱うことを念頭に置き、客観的でより多面的に、そして実用的なものに…そう考えて書き進めました。サブタイトルを「船舶に関する金融・経営・法の体系」としたこともあり、とりわけ、法的論点についてより正確を期すべく、TMI総合法律事務所パートナー弁護士の長田旬平氏にご協力をお願いしました。すべては、「本書を船舶金融分野のバイブルたらしめん」との思いからです。あとは、読者の皆様に飽くことなく本書を読み進めていただき、各自研究されることを希うばかりです。もちろん、わたし自身も気力・知力・体力の続く限り、論文等で詰め将棋を楽しむが如く船舶金融について論を深めていく所存です。
本書が皆様のビジネスの一助となれば、それは望外の喜びです。
―2訂版にあたって―
初版『船舶金融論』はおかげさまで多方面の方々にお読みいただき、船舶金融(とりわけ、船舶融資)のテキストとして相応の評価を頂戴しました―2017年山縣勝見賞著作賞を受賞―。
初版からさほど時間が経過していないなかで2訂版を出版しようと考えたのは、「船舶金融が社会とともに生き続ける金融手法」であるからにほかなりません。それは、船舶金融が社会経済上不可欠な基幹産業である海運業界の商売道具ともいえる「船舶」を中心概念に置いている証左でもあります。すなわち、船舶金融は社会の変化とともに深化、進化する宿命にあり、常に変容する性質をはらんでいるのです。船舶金融がそうした性質を有する限り、当該テーマを体系的に扱う本書もその内容を変容させていかなければなりません。本書の改訂は、いわば必然的なものと理解いただければ幸いです。
改訂にあたっては、章立ての変更、早稲田大学大学院での講義や外部セミナーの講師を務めるなかで改めて整理したポイント、詳しく説明したほうがわかりやすいと感じた点などを加筆修正しました。また、船舶金融により関心を持っていただくべく、“deviation”というタイトルでブレークのコーナーも設けました。まさに“離路”と言うべき内容ですが、興味を持っていただけるようなテーマを選んでおりますのでぜひともご一読ください。(「はじめに」より)
目次
刊行によせて(堀 龍兒(早稲田大学名誉教授/TMI総合法律事務所顧問))
はじめに
法令等の略語
序章 船舶金融の登場人物
1. 船舶金融の定義
2. 船舶金融の登場人物
(1)海事クラスター(maritime cluster)
(2)主なプレーヤーたち
deviation: パナマとリベリア
第1章 船舶金融の体系
1. 船舶所有SPC の貸借対照表
1-1 「Debt」と「Equity」
1-2 資本提供者の期待利回り
1-3 「船舶」という名の資産
(1) 船舶の取得原価
deviation: vessel について
(2) 船舶の減価償却
1-4 船舶所有SPC の企業価値
1-5 資本の構成
(1) 期待利回りの相違
(2) 借入に伴う節税効果
(3) 過剰債務に伴う倒産リスク
(4) 資金調達サイドの事情
(5) 船舶金融の場合
2. 船舶金融の体系
2-1 原始取得と承継取得
(1) 原始取得
(2) 承継取得
2-2 financial scheme designed by D, M & E
2-3 船舶金融のラインアップ
(1) private funds
(2) banks finance
(3) capital markets
第2章 船舶融資の定義
1. 船舶融資を定義するにあたって
(1) わが国海運略史と船舶融資
deviation: 戦後日本海運の復活に至るいばらの道
(2) 船主向けの船舶融資
(3) 船舶融資とIFRS 問題
2. 船舶融資の定義
(1) 船舶融資の一般的定義
(2) 船舶融資の発展的定義
3. 船舶融資の構成要素
3-1 船舶所有者について
(1) 船舶所有者の定義
(2) 船主の実態および特異性
(3) 船主ビジネスの評価
3-2 船舶について
(1) 船舶の定義
(2) 船舶の物理的性質について
(3) 船舶の法的性質について
(4) 船舶のスペック(specification)について
(5) 船舶の区分について
(6) 外航商船について
(7) 海上物品運送契約について
(8) 傭船契約(Charterparty)について
3-3 船舶の建造あるいは購入について
(1) 船舶建造契約(SBC:Shipbuilding Contract)
(2) 船舶売買契約(MOA:Memorandum of Agreement)
deviation: 売船―船主とファイナンサーの長い一日
3-4 船舶融資提供者について
(1) 一金融商品としての船舶融資
(2) 長期性資金についての論考
(3) 船舶融資提供者
3-5 船舶抵当権についての論考
(1) 船舶抵当権の権能
(2) 船舶先取特権
(3) 後順位の船舶抵当権
deviation: 錨(アンカー)
第3章 船舶融資の諸相
1. 船舶融資の特性
1-1 高度な専門性
(1) 金融に関する専門知識
(2) 海事業界に関する知識
(3) 法などに関する知識
1-2 プロジェクトファイナンスの原型
1-3 幅広いプレーヤーとの接点
2. 船舶融資の類型
2-1 オペレーター向け船舶融資
2-2 船主向け船舶融資
(1) オペレーターのオフバランス志向
(2) オペレーターと船主の関係
(3) プロジェクトベースローン(project based loan)
2-3 アセットベースローン
3. SPC についての論考
(1) SPC が介在する理由
(2) タックスヘイブン対策税制
第4章 船舶融資可否判断基準
1. 総論
1-1 3 つの眼
(1) 営業担当者の眼
(2) 審査担当者の眼
(3) 経営者の眼
1-2 融資可否判断におけるリスク
(1) リスクとはなにか
(2) リスクの認定と評価
2. 各論
2-1 ストラクチャーチェック
2-2 プロジェクトリスク分析
(1) 船主関連リスク
(2) 傭船関連リスク
deviation: FFA(Freight Forward Agreement)
(3) 船舶関連リスク
deviation: Mayday
deviation: 油濁損害賠償
2-3 キャッシュフロー分析
(1) 債務者に不測の事態が生じた際に融資元本を全額回収できるか
(2) 融資期間中にわたって融資元本を全額回収できるか
2-4 推進意義チェック
(1) プロジェクト自体にかかる収益性
(2) プロジェクト自体にかかる社会性
2-5 経営環境・経営方針との整合性
(1) マーケティングポリシー
(2) 経営環境
(3) 経営方針
deviation: 船舶融資可否判断基準と船舶投資可否判断基準
第5章 船舶融資の実行
1. Loan Agreement について
(1) 銀取について
(2) 金消について
(3) Loan Agreement について
2. Loan Agreement 概説
(1) 前文(Whereas)
(2) 定義(Definitions)
(3) 本文
第6章 モニタリング
1. プロジェクトモニタリング
(1) 船主関連リスクマネジメント
(2) 傭船関連リスクマネジメント
(3) 船舶関連リスク
2. 債権保全度モニタリング
(1) 後順位抵当権の設定
(2) 船舶先取特権の発生状況
3. 債務不履行が懸念される場合の対応
(1) キャッシュフロー悪化時における初期動作
(2) デフォルト(債務不履行/期限の利益喪失)の効果
(3) 私的整理
(4) 船舶抵当権行使
deviation: 海事紛争解決手段と船舶金融
第7章 船舶金融の進化
1. special purpose structure について
(1) 所有権留保型船舶金融
(2) JOL(Japan operating lease)
(3) プロジェクトファイナンス(project finance)
2. 船舶融資の深化(D → D)
(1) 従来型船舶融資のレベルアップ
(2) 従来型船舶融資のオープン化
(3) 経営コンサルティング機能の提供
3. 船舶金融の深化(D・M・E → D・M・E)
(1) 船舶共同投資
(2) 複数の船主等による持株会社の設立
(3) 投資家と船主による共同投資
(4) 船救済型スキーム
(5) 流動化(証券化)
(6) LBO ファイナンス
4. 船舶金融の進化(D・M・E → D´・M´・E´)
(1) 船舶金融の社会的使命①―「B to B」の世界
deviation: 国際海峡
deviation: 水中文化遺産保護条約
(2) 船舶金融の社会的使命②―「B to C」の世界
deviation: 船舶の区分所有―個人マネーの活用
(3) 船舶金融提供者の変容についての提案
プロフィール
木原 知己(きはら ともみ)
1984年4月九州大学法学部法律学科卒業後、日本長期信用銀行(現新生銀行)入行。主として船舶融資を担当し、営業第八部長、高松支店長を最後に同行退職。2005年に都内金融機関に入行し、船舶金融チームを立ち上げる。2011年、青山綜合会計事務所顧問に就任。その後、パートナー、海事スーパーバイザーを歴任。船主向け経営コンサルティングの傍ら、ファイナンスアレンジなどに従事する。現在、早稲田大学大学院法学研究科非常勤講師(船舶金融法研究)、センチパートナーズ㈱代表取締役、海事振興連盟三号会員、海洋立国懇話会理事などを務める。
主要著書に『シップファイナンス―船舶金融概説(増補改訂版)』海事プレス社(2010年)―住田海事奨励賞受賞、『船主経営の視座―税務・為替の手引』海事プレス社(2011年)、『波濤列伝―幕末・明治期の“夢”への航跡―』海文堂出版(2013年)、『号丸譚―心震わす船のものがたり』海文堂出版(2018年)、編著に『船舶金融法の諸相―堀龍兒先生古稀祝賀論文集』成文堂(2014年)がある。