デザインマーケティングの教科書
日本感性工学会出版賞受賞(2020年度)
いま、感性的価値が注目され、その価値をコンピュータを用いて心理的に測定することも可能になり、マーケティングにデザインを取り入れようという研究が始まっている。そのような現状を踏まえ、企業のデザイナーであり、感性工学の専門家である著者が、デザインの立場からマーケティング理論をわかりやすく解説する。
書籍データ
発行年月 | 2019年10月 |
判型 | A5 |
ページ数 | 248ページ |
定価 | 3,190円(税込) |
ISBNコード | 978-4-303-72722-2 |
概要
今日、近代的なマーケティング理論は、フィリップ・コトラーなどの多くの理論家によって確立されてきている。その理論は多くの実践結果を踏まえて進化してきている。その影響はデザインの分野でも無縁ではない。むしろ、近代デザインはマーケティング理論とともに誕生した経緯がある。しかし、マーケティング理論にとって、デザインのもつ情緒的な要素のために、その理論の中に位置づけが明確にされていない。
コトラーの大著である第12版(1968年に初版)という長い歴史の「マーケティング・マネージメント」でも、デザインについての解説はコラム的な内容だけである。他方、デザイナーが著作したデザインマーケティングの本はなく、デザイン関係の書籍の中のデザインプロセスの解説のところで言及する程度である。
筆者のデザイナーとしての実務経験の中で、マーケッターと一緒に仕事をすることは多くあり、彼らとの協力なしでは製品デザインを生み出すことはできない。その重要性が増すと、デザイン部門の中でもマーケティングの考え方を組織的に取り入れることもなされてきた。
特に、オイルショックなどで景気後退が始まり、企業が消費者のニーズに注目するようになると、ニーズを探るマーケティングだけでなく、それを具現化するデザインの力の重要性が増した。ニーズの具現化の内容次第で成功が決まったからである。マーケティングとデザインの共創の時代に入った。
さらに、飽食の時代と情報化社会に入ると、人々の価値観がモノからコトに移り、従来のマーケティング・リサーチを実施しても、消費者の欲求を求めることができなくなった。人々が求めるものは文化的で豊かな暮らしである。それに必要なのは企業の人々の生活や社会に対する提案力や解決力である。
このような時代では、デザインを中心とした具体的な提案力や解決力が重要になってきている。マーケティングが苦手なアイデアを具体的な形に落とし込む手法であるデザイン思考のように、マーケティング理論がデザイン理論を取り入れることをはじめている。
また、経済産業省と特許庁が公表した「デザイン経営」(2018)でも、デザインは人々が気づかないニーズを掘り起こし、事業にしていく営みでもあると捉えて、企業の産業競争力の向上には、デザインマーケティングが重要であると述べている。
このように、マーケティング理論において、デザインの重要性が増大しているのにも関わらず、デザインから見たマーケティングの解説書がないことは、デザイナーの怠慢である。そこで、四半世紀にわたる企業でのデザインの実務を経験した筆者が、大学での研究活動の経験も踏まえて、今後のデザインマーケティング理論のたたき台となる本書を企画した。
本書では、コトラーのマーケティング3.0と、アメリカマーケティング協会の定義をもとにした嶋口・石井による3つの枠組みをベースに、デザインマーケティングを3つに分けて解説した。つまり、2章の「製品重視のデザインマーケティング」、3章の「顧客志向のデザインマーケティング」、4章の「人間中心のデザインマーケティング」である。3章と4章は筆者のデザイン実務での経験と研究結果を踏まえて論じた。
さらに、5章では、デザインの視点からどのようなマーケティング・リサーチが必要かについても解説した。そして、デザインに特化した定量的なマーケティング・リサーチ手法として、筆者の提唱する「感性デザイン」の考え方を6章で解説している。
最後の7章では、今日のICT化の進んだ時代、ユーザーは使いやすくて楽しいスマートフォンなどの情報通信端末を求めている。このようにデザインマーケティングでより重要になってきたインタフェースデザインについて解説した。
本書の対象読者は、現場のデザイナーやマーケッターを対象にしているだけでなく、これからデザインやマーケティングを学ぼうとしている学生も強く意識している。また、デザインやマーケティングと関係のある経営者やサラリーマンにも読んでいただけるような比較的平易な内容にしてある。したがって、本書はデザインマーケティングの教科書と呼ぶべき内容になった。(「はじめに」より抜粋)
目次
1 マーケティングとデザイン
1.1 マーケティングはデザインが必要
1.2 マーケティングの定義とその変遷
1.3 マーケティングの3つのパラダイム
1.4 コトラーによるマーケティング変遷の考え方
1.5 芸術運動とデザイン
2 製品重視のデザインマーケティング
2.1 デザインと関係するマーケティングの誕生
2.2 商業主義のデザイン
2.3 流行とデザイン
2.4 日本のデザイン振興
3 顧客志向のデザインマーケティング
3.1 デザイン組織の変革
3.2 近視眼のデザインマーケティング
3.3 リフレーミングのデザイン
3.4 イノベーター理論とデザイン
3.5 イノベーターを対象にしたデザイン
3.6 バーティカル・マーケティング
3.7 「デ・デザイン」と心理学的効果
3.8 製品の価値構造とデザイン
3.9 スケルトンデザインの流行
3.10 機能をマイナスするデザイン
3.11 マーケット・クリエーション
4 人間中心のデザインマーケティング
4.1 多様化する人々の価値観
4.2 デザインで社会問題を解決する
4.3 日本文化に根差したデザイン
4.4 情報のデザイン
4.5 サービスや経験を演出するデザイン
4.6 人間を中心にしてデザインを発想する
4.7 ユーザーエクスペリエンスと感性価値
5 デザインのためのマーケティング・リサーチ
5.1 リサーチの3段階進化説
5.2 デザインにおけるSTP分析
5.3 コミュニケーション心理学とマーケティング
5.4 観察による潜在ニーズの解明
5.5 行動分析による潜在ニーズの解明
5.6 インターネットによるリサーチ
5.7 トレンド情報の収集
6 感性デザインとマーケティング
6.1 デザインの審美性
6.2 顧客の認知評価モデル
6.3 イメージと認知部位の抽出
6.4 特徴の抽出法
6.5 認知評価構造の分析手法
6.6 分析結果の検証と創造性
6.7 顧客満足を用いたUXデザイン
7 インタフェースデザインとマーケティング
7.1 情報化社会のマーケティング
7.2 人間の認知モデル
7.3 インタフェースデザインの設計手法
7.4 感情とコンテンツ型インタフェース
7.5 見た感じ使いやすそうなデザイン
7.6 直感的なインタフェースデザイン
7.7 使いたくなるインタフェースデザイン
プロフィール
井上 勝雄(いのうえ かつお)
1978年千葉大学大学院工学研究科修了。同年三菱電機(株)に入社。2000年同社デザイン研究所インタフェースデザイン部長を経て、2002年広島国際大学教授、2018年より(株)ホロンクリエイト研究顧問、現在に至る。博士(工学)、認定人間工学専門家、専門社会調査士。感性工学およびラフ集合を用いたデザイン評価・設計論、インタフェースデザインに関する研究に従事。
編著書に『インタフェースデザインの教科書』(丸善出版)、『デザインと感性』『ラフ集合の感性工学への応用』(共に海文堂出版)、他多数。日本デザイン学会研究奨励賞受賞、日本感性工学会出版賞受賞、日本知能情報ファジイ学会著述賞を受賞。日本デザイン学会名誉会員。
その他
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