言語聴覚士の音響学入門[2訂版]
リハビリ専門職などを目指す学生向けのコンパクトな音響学の教科書。多くの文科系出身者が高校で物理を履修せず、数学においても微積分の基本的知識を持ち合わせないという状況を前提に、高度な数学をまったく使わず、なおかつ音声・聴覚分野の立ち入った部分までを解説。本文で扱うさまざまなサンプル音はネット上にアップロードされており、自由に聴くことができる。
[2023年4月、3版発行]
書籍データ
発行年月 | 2020年2月 |
判型 | A5 |
ページ数 | 232ページ |
定価 | 2,860円(税込) |
ISBNコード | 978-4-303-61041-8 |
概要
本書の初版が出版されたのはおよそ14年前のことになる。当時は、文系の学生に読めるような音響学の本はほとんど存在せず、本書には、その希少性によってある程度の需要があったようである。その後、言語聴覚士の養成課程が増えたこともあり、高等数学を省いた音響学の本がいく種類か出版されてきた。その中にあって、本書は「入門」としての特徴が、とくに初学者の需要に応えることになり、一定の評価を得てきたように思う。
今回の改訂に当たって、主に変更したのは下記の点である。
1. デシベルの計算方法の一部について、実際の国家試験に対応できるよう、より実践的な方法に変更した。
2. 音の等感曲線について、古いISO226の図を廃して、ISO-226:2003を導入した。
3. 連続スペクトルとなるバンドノイズなどのレベルの計算を追加した。
4. 喉頭原音についての記述を追加した。
5. 超音節的要素について、ほぼ一節を書き下ろした。
6. その他、かなりの箇所で原稿の追加・修正を行った。
7. 内容とは別に、添付していたCDを廃して、ネット上にサンプル音をアップロードし、スマホなどで直接再生できるようにした。新しいサンプル音源は、基本的には従来本書に添付していたCDの音源を踏襲しているが、いくつかの音を差し替え、また、喉頭原音や超音節的要素に関する音を追加した。
(「はじめに」より抜粋)
目次
第1章 音波の性質
1. 波の基本的性質
(1)波長、周期、周波数
(2)音速と波長、周波数の関係
(3)縦波と横波
(4)進行波と定常波
(5)純音
2. 定常波と共鳴
(1)弦の振動
(2)開管の共鳴
(3)閉管の共鳴
(4)外耳道、声道への応用
3.《発展》倍音と音階
(1)オクターブ
(2)倍音と音階の対応関係
(3)純正律
(4)平均律
4. うなり
5.《発展》ドップラー効果
6. 回折
(1)ホイヘンスの原理
(2)回折
(3)頭の陰影効果
7. 反射と屈折
(1)反射
(2)屈折
第2章 音の強さの尺度
1. 音圧と音の強さ
(1)音の強さと大きさ
(2)音圧
(3)音圧と音の強さの関係
2. デシベル
(1)音の強さに対する感覚とデシベル
(2)対数(log)
(3)デシベルの式
3. デシベルの計算
(1)音圧比→dBに変換
(2)dB→音圧比に変換
(3)dB SPL→音圧に換算
(4)音圧→dB SPLに換算
4. デシベルの基準値
(1)音圧レベル
(2)聴力レベル
(3)感覚レベル
5. デシベルに関する補足事項
(1)平均聴力レベル
(2)phon(フォン)
(3)音響利得
第3章 音のスペクトル
1. 純音の式
2. 音の種類
3. スペクトルの意味と実例
(1)純音のスペクトル
(2)周期音のスペクトル
(3)ホワイトノイズ(白色雑音)
(4)ピンクノイズ(桃色雑音)
(5)バンドノイズ
(6)インパルス(クリック音)
4. スペクトル分解の原理
(1)フーリエ級数
(2)フーリエ変換
(3)音の種類とスペクトル
(4)《発展》ノイズのレベル
5. 短音のスペクトル
(1)短時間スペクトル
(2)《発展》窓関数
6. サウンドスペクトログラム
7. 音のデジタル化
(1)アナログとデジタル
(2)データのサンプリング(標本化)
第4章 音響心理学
1. 音の大きさの知覚
(1)フェヒナーの法則
(2)スティーブンスのべき法則
(3)ウェーバーの法則
(4)外耳道内外における音圧の変換 115
(5)音の強さを弁別する仕組み
2. 音の高さの知覚
(1)音の高さとオクターブ感覚、mel尺度
(2)短音の高さの知覚
(3)場所ピッチ
(4)時間ピッチ
(5)時間ピッチと場所ピッチの役割
(6)複合音の高さの知覚
3. マスキング
(1)マスキング量と周波数特性
(2)3種のマスカーによるマスキング
(3)臨界帯域
(4)非同時マスキング
4. 両耳聴
(1)両耳の加算、融合
(2)方向知覚
(3)MLD(masking level difference)
(4)先行音効果
第5章 音響音声学
1. 母音の生成の仕組み
(1)音源フィルタ理論とは
(2)母音の音源(声帯の振動)
(3)声道の共鳴(フィルタ)
(4)放射特性
(5)スペクトログラムによる表現
2. 母音とフォルマント
(1)第1フォルマント
(2)第2フォルマント
(3)5母音と第1、第2フォルマント
3. 鼻音とアンチフォルマント
4. 子音とフォルマント遷移
(1)摩擦音
(2)破擦音
(3)破裂音
(4)フォルマント遷移
(5)ローカス(フォルマント開始周波数)
(6)鼻子音・接近音のフォルマント遷移
5. 音素の連続による効果
(1)調音結合
(2)ピッチアクセントとピッチ曲線
(3)アクセント句
(4)ダウンステップ(カタセシス)
6. 総合分析
(1)分析例-1
(2)分析例-2
7. 構音障害と音響分析
さらに勉強するために
言語聴覚士国家試験・模擬問題
プロフィール
吉田 友敬(よしだ ともよし)
1986年 東京大学教養学部教養学科卒業、株式会社河合楽器製作所入社
1996年 日本聴能言語福祉学院非常勤講師
1998年 成安造形大学非常勤講師
2001年 名古屋大学大学院人間情報学研究科博士課程満了
2003年 名古屋文理大学専任講師
現在 名古屋文理大学教授
専門分野:音楽認知科学、音楽神経科学、音楽・音声音響学、非線形科学
学会活動:情報文化学会、日本音響学会、情報処理学会、音楽知覚認知学会、日本認知科学会、電子情報通信学会会員
その他
<サンプル音・音声の一覧>
1. 純音:440Hz
2. 純音:880Hz
3. 純音:1760Hz
4. 純音:3520Hz
5. 純音:7040Hz
6. 純音:14080Hz
7. 純音:17000Hz
8. 純音:20000Hz
9. 純音:220Hz
10. 純音:110Hz
11. 純音:55Hz
12. 純音:40Hz
13. 純音:30Hz
14. 純正律の「ドミソ」
15. 平均律の「ドミソ」
16. うなり:2Hz(440Hz+442Hz)
17. うなり:0.5Hz(440Hz+440.5Hz)
18. うなり:10Hz(440Hz+450Hz)
19. ドップラー効果:音源速度20m/s、ずれ10m
20. ドップラー効果:音源速度20m/s、ずれ1m
21. ドップラー効果:音源速度50m/s、ずれ10m
22. 名古屋鉄道パノラマカーによるドップラー効果
23. 純音を10dBずつ弱くした音の列(440Hz)
24. 純音を5dBずつ弱くした音の列(440Hz)
25. 純音を3dBずつ弱くした音の列(440Hz)
26. 純音を1dBずつ弱くした音の列(440Hz)
27. ホワイトノイズ
28. ピンクノイズ(1/fノイズ)
29. ブラウンノイズ
30. バンドノイズ:中心周波数8000Hz、帯域幅1000Hz
31. バンドノイズ:中心周波数4000Hz、帯域幅800Hz
32. バンドノイズ:中心周波数2000Hz、帯域幅300Hz
33. バンドノイズ:中心周波数1000Hz、帯域幅200Hz
34. バンドノイズ:中心周波数500Hz、帯域幅120Hz
35. バンドノイズ:中心周波数250Hz、帯域幅100Hz
36. バンドノイズ:中心周波数125Hz、帯域幅100Hz
37. クリック音
38. パルス列による音(パルスの頻度400Hz)
39. 方形波(400Hz)
40. 純音成分の第9倍音までを合成して方形波に近づけた音
41. 三角波(400Hz)
42. 純音成分の第9倍音までを合成して三角波に近づけた音
43. 短音:400Hz、100ms
44. 短音:400Hz、50ms
45. 短音:400Hz、10ms
46. 短音:400Hz、3ms
47. 方形窓(前半5回)とハミング窓(後半5回):400Hz、実効50ms
48. 図3-21、図3-22の音声:「世界の」
49. サンプリング周波数による音質の違い:44100Hz→16000Hz→8000Hz
50. 無限に上昇する音階
51. 無限に下降する音階
52. 15msのトーンバースト列(500Hz、562.5Hz、625Hz、666.7Hz、750Hz)
53. 6 ms のトーンバースト列(500Hz、562.5Hz、625Hz、666.7Hz、750Hz)
54. 2 ms のトーンバースト列(500Hz、562.5Hz、625Hz、666.7Hz、750Hz)
55. リプル雑音:400Hz、800Hz
56. リプル雑音:1600Hz、6400Hz
57. ホワイトノイズの断続:100Hz
58. ホワイトノイズの断続:150Hz
59. バーチャルピッチ:200Hz(基本音と2倍音を欠いた音)
60. 200Hzの複合音
61. 1800Hz+2000Hz+2200Hzの純音を重ねた音
62. 1840Hz+2040Hz+2240Hzの純音を重ねた音
63. 結合音:1000Hz+1800Hz(1000×2-1800=200Hzを感じるかどうか)
64. バンドノイズによるマスキング:中心周波数440Hz、帯域幅120Hz
65. ホワイトノイズによるマスキング
66. 高周波側のマスキング:中心周波数3500Hz、帯域幅800Hz、信号音4000Hz
67. 低周波側のマスキング:中心周波数4000Hz、帯域幅800Hz、信号音3500Hz
68. バンドノイズ+信号音(信号音1000Hz、中心周波数1000Hz、帯域幅200Hz)
69. ノイズ+信号音近接(信号音1000Hz、中心周波数1000Hz、帯域幅200Hz)
70. 信号音+バンドノイズ(信号音1000Hz、中心周波数1000Hz、帯域幅200Hz)
71. 信号音+ノイズ近接(信号音1000Hz、中心周波数1000Hz、帯域幅200Hz)
72. 両耳ビート:左440Hz/右441Hzの場合、左1200Hz/右1201Hz の場合
73. 位相差による方向変化:左右45°、500Hz、2000Hz
74. 強度差による方向変化:440Hz、4000Hz
75. クリック音を左右で1万分の1秒ずつタイミングをずらした音
76. MLD:両耳に純音(同相)+ノイズ(同相)
77. MLD:両耳に純音(逆相)+ノイズ(同相)
78. MLD:右耳に純音+ノイズ
79. MLD:右耳に純音+両耳にノイズ(同相)
80. 聴診器を喉頭に当てて録音した音「アイウエオ」
81. 図5-14の音声:「イエアオウ」
82. 図5-20の音声:鼻子音
83. 図5-22の音声:摩擦音
84. 図5-24の音声:破擦音
85. 図5-25の音声:破裂音
86. 図5-26の音声:破裂形
87. /pa/、/ta/、/ka/から破裂部分を除いた音
88. 図5-28の音声:/ba/、/da/、/ga/のフォルマント遷移
89. 図5-31の音声:/na/と/da/のフォルマント遷移
90. 図5-32の音声:/ba/、/wa/、/ua/のフォルマント遷移
91. 図5-33の音声:/ga/、/ja/、/ia/のフォルマント遷移
92. 図5-35の音声:「ア」「イアイ」
93. 図5-36の音声:「箸-橋」
94. 図5-37の音声:「雨-飴」
95. 図5-38の音声:「甘いクリーム-辛いクリーム」
96. 図5-39の音声:「辛いクリームを食べたい」
97. 図5-40の音声:「甘いクリームを食べたい」
98. 図5-41の音声:「どんどん利用してほしい」
99. 図5-42の音声:「誰にでもできるだろう」
100. 図5-43の音声:「猫が魚をくわえて」
101. 図5-44の音声:「一人暮らしの女性が自室で」
102. 図5-45の音声:「昔あるところに」
103. 図5-46の音声:「そうすると30分か1時間半」
104. 図5-47の音声:「ぜんざい、日曜日」
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