日本の海のレジェンドたち

山縣記念財団80周年記念出版編集委員会 編

山縣記念財団の設立80周年記念出版。海事・海運の専門家や関係者、総勢21名の執筆陣による、海を舞台に活躍、また海事産業の発展に寄与したレジェンドともいうべき偉人20余名の評伝集。「日本の海のレジェンドたち」が、いかにその時代の課題を見つめるとともに将来へのヴィジョンを描き、より良き時代の到来に向けて努力を重ねてきたか、現代を生きる私たちにも参考となるだろう。

書籍データ

発行年月 2021年4月
判型 A5
ページ数 288ページ
定価 2,750円(税込)
ISBNコード 978-4-303-63442-1

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概要

 本書は、江戸時代以降、海を舞台に活躍した「レジェンドたち」の評伝を集めたものです。その中には商人や武士もいれば、偶然の漂流から生還して一躍ヒーローになった庶民もおり、また、明治・大正・昭和期に海事産業の近代化に尽くした海運企業の経営者、さらには大船長の名前もあります。
 わが国は、「海の日」を「国民の祝日」にしている唯一の国です。「海の日」は、「海の恩恵に感謝するとともに、海洋国日本の繁栄を願う」ことを目的に制定された祝日です。四面を海に囲まれたわが国は、古来、海から多くの恩恵を受けてきました。海のおかげで、湿潤で温暖な気候や風土、豊かな海産物や資源に恵まれ、そこには漁業等を営む人々がいましたし、また、船によって、離れた地域と物資をやりとりする貿易商たちや海運企業で働く人々がいました。時代が進み、人口が増加し、海外とのヒト・モノ・文化の往来もますます活発になりました。こうして海は「世界を隔てるもの」ではなく「世界をつなぐもの」になったのです。
 本書の編者である一般財団法人山縣記念財団は、「海事交通文化の発展に寄与すること」を目的として、昭和15 年(1940)、当時の辰馬汽船(現在の商船三井の源流の一つ)社長であった山縣勝見によって設立され、令和2 年(2020)6 月に設立80 周年を迎えた記念として、本書を企画しました。企画の動機は、当財団の設立時期よりさらにさかのぼって、江戸時代以降の「日本の海のレジェンドたち」がいかにその時代の課題を見つめるとともに将来へのヴィジョンを描き、より良き時代の到来に向けて努力を重ねてきたか、現代を生きる私たちにも参考になることはないか検証したい、という考えからです。
 この文章を書いているいま現在、世界は新型コロナウイルス感染症という未曽有の危機に直面し、人々の健康に対してはもちろん、生活や仕事にも大きな影響が出ています。しかし、この間も「海運」をはじめとした「物流」は片時も止まることなく、人々に食料・生活物資・エネルギーを供給し続けています。「海運」が人々の生活の「基本インフラ」であること、「船員」という仕事がいかなる状況であっても「エッセンシャル・ワーカー」であることを多くの皆様に是非知っていただきたい、そして、離れた地域間、ひいては世界中の人々と平和的に共存共栄できるようなつながりを求め、海上交通網を構築し、維持・拡大に努力してきた人々、その中で活躍した人々に思いを馳せていただきたい、そうした思いを胸に本書を皆様のお手元にお届けさせていただく次第です。(「はしがき」より抜粋)

目次

第一部 助走~世界に冠たる内航海運を支えたレジェンドたち~
 河村瑞賢
 大黒屋光太夫
 高田屋嘉兵衛
 銭屋五兵衛
第二部 ホップ~海外と関わったレジェンドたち~
 勝海舟
 小栗上野介忠順
 ジョン万次郎
 坂本龍馬
 漂流譚のなかのレジェンドたち
第三部 ステップ~海事産業の近代化を担ったレジェンドたち~
 岩崎弥太郎
 荘田平五郎
 浅野総一郎
 郡寛四郎
 松方幸次郎
第四部 ジャンプ~海事産業の発展に寄与したレジェンドたち~
 山下亀三郎
 各務鎌吉
 勝田銀次郎
 村田省蔵
 内田信也
第五部 未来へ~海事産業を新たなステージへと導いたレジェンドたち~
 森勝衛
 和辻春樹
 住田正一
 有吉義弥
 山縣勝見

プロフィール

編者紹介
一般財団法人山縣記念財団
 山縣記念財団は、昭和15 年(1940)、商船三井の源流企業のひとつである旧辰馬汽船の社長を務めた山縣勝見(1902–76)によって、学理と実務の統合的機関として設立され、令和2 年(2020)に設立80 周年を迎えました。
 山縣勝見は、戦後、海運会社と損保会社の社長を務めたほか、(社)日本船主協会会長、参議院議員、吉田内閣での国務大臣・厚生大臣などを歴任しました。先の太平洋戦争でほとんどの船を喪い、多くの船員が犠牲になるなど、壊滅的な状況にあった日本海運の再起を図るべく、昭和26 年(1951)、欧米各国を歴訪して政府や海運業界の要人たちと折衝するなど、同年9 月のサンフランシスコ平和条約で日本海運が国際社会に復帰するために尽力しました。

執筆者紹介
(掲載順)

谷弘
運輸省、科学技術庁等において、海運造船、運輸政策、防災安全、技術開発業務等に従事。著書に『千石船の湊を訪ねて』(芸立出版)、『江戸の町造りと船』(文芸社)等。他に日本海事史学会「海事史研究」に論文多数。

代田美里
鈴鹿市文化スポーツ部文化財課勤務。学芸員。同課が所管する大黒屋光太夫記念館では、展示や資料調査を担当している。年4回開催する展覧会や講演などを通じて、光太夫の業績と魅力を伝えるために奮闘中。

斉藤智之
1963年兵庫県洲本市生まれ。関西学院大学文学部仏文科卒業。高田屋顕彰館・歴史文化資料館学芸専門員。訳書『日本幽囚記』(I、II、III、IV)、『対日折衝記』。

木越隆三
1951年金沢生、金沢大学大学院文学研究科卒、同大学より学位博士(文学)取得。『銭屋五兵衛と北前船の時代』で泉鏡花記念市民文学賞受賞。現在金沢工業大学客員教授、石川県金沢城調査研究所長、北陸史学会副会長。

高山みな子
フリーランスライター。海舟の三女・逸の曾孫。祖母は海舟と一緒に暮らしたこともある。共著で『勝海舟関係写真集』(風狂童子)他。高知県、長崎市、松阪市、東京都港区の観光大使、神奈川県大和市健康都市大学客員教授。

村上泰賢
1941年生。駒澤大学文学部卒。東善寺住職、小栗上野介顕彰会理事、群馬県山岳連盟参与。編著作は本文掲載作以外に『小栗忠順のすべて』新人物往来社、『シャルミリ インドヒマラヤCB53峰初登頂の記録』みやま文庫。

北代淳二
NPO法人・中浜万次郎国際協会理事長。元TBSワシントン、ニューヨーク特派員、アメリカ支社長などを歴任。コロンビア大学院卒。高知生まれで中学生時代から万次郎に興味を持ち、退職後は万次郎研究に専念。

渋谷雅之
徳島大学名誉教授、現代龍馬学会副会長、元徳島大学教授、薬学博士。歴史関連著書:『近世土佐の群像』シリーズ(本巻9冊、別巻2冊)、『寺村左膳』(以上私家版)他。

木原知己
日本長期信用銀行(現新生銀行)などを経て現在早稲田大学大学院非常勤講師。専門は船舶金融論、海洋文化論。著書に『シップファイナンス』(住田海事奨励賞)、『船舶金融論』(山縣勝見賞著作賞)、『波濤列伝』など。

武田晴人
1949年生。東京大学経済学部、大学院を経て同大助教授、教授。2005年定年退職(東京大学名誉教授)。2020年(公財)三井文庫常務理事・文庫長に就任。主要著書は『日本経済の発展と財閥本社』東京大学出版会(2020年)など。

平野隆
慶應義塾大学商学部教授、慶應義塾福澤研究センター副所長、専門は近現代日本産業史・経営史。著書に『近代日本と福澤諭吉』(共著、慶應義塾大学出版会、2013年)、『慶應義塾史事典』(慶應義塾、2008年)編集委員など。

新田純子
中央公論女流新人賞受賞。祖父が浅野の部下であった。総一郎を書くと決心するや、次々と日本が歩んだ近代史が見事な織物のように広がり、現代の基盤となったことを実感。是非、彼の一生懸命さを知って欲しいと願っている。

河村直樹
1975年川崎汽船入社。2017年米国現法会長を退任したのち2019年に創立100周年を迎えるにあたり刊行した『川崎汽船100年史』の編集に携わった。

宮本しげる
1967年(株)ジャパン近海に入社、2008年(株)商船三井内航を退職後、内航大型船輸送海運組合・事務局長に就任。2014年退任後、同郷の山下亀三郎翁を描いた『トランパー』を愛媛新聞サービスセンターより自費出版。

宮崎悟司
1972年東京海上火災保険(株)入社、船舶保険部、日本船舶保険連盟、ブラッセル・パリ各主席駐在員を経て宇宙保険室長、国際航空宇宙保険者連合スペースリスク委員会委員歴任。『東京海上125年史』編纂を担当、2006年退社。

太田由美子
ライター。神奈川県出身、愛媛県在住。松山で発行の冊子にて愛媛ゆかりの偉人に関する記事を執筆。主な編著に『広田村史 続編』、『村の記憶─留吉さん、九十二歳が綴る物語』(愛媛出版文化賞)など。

野間恒
愛媛県西条市生まれ。慶應義塾大学経済学部卒、大阪商船(現商船三井)勤務を経て九州急行フェリー取締役社長(1990–98)、The World Ship Society 終身会員。山縣勝見賞・住田海事奨励賞受賞。『客船の世界史』他著書多数。

吉田茂
明治海運(株)取締役常務執行役員を経て現在同社顧問。大正期に船成金として名を馳せ、その後政治家に転身し農林・運輸行政で活躍、戦後海運業に戻り明治海運の安全・安定経営の基礎を築いた内田信也を知って欲しいと願っている。

逸見真
新和海運株式会社船長、海技教育機構海技大学校准教授を経て、現在、東京海洋大学学術研究院海事システム工学部門教授、一級海技士(航海)、博士(法学)、著書に『船長論―引き継がれる海の精神』。

松本洋幸
大正大学文学部准教授。元横浜開港資料館調査研究員。現在、日本学術振興会科学研究費助成事業「有吉義弥家資料からみた第二次世界大戦後の日本海運」(2019–2021)の研究代表者をつとめる。

郷古達也
兵庫県西宮市生まれ。三菱銀行(現三菱UFJ銀行)勤務を経て、山縣記念財団に入り、2017年理事長に就任。他に(公社)日本海洋少年団連盟理事、海洋立国懇話会運営委員等。山縣勝見の孫に当たる。