船の基本
―船のスペシャリストを目指す人のための入門書
船舶工学の第一人者である著者が送る<船の専門家を目指す人のための入門書>の決定版。第1章「船とは」から始め、船の分類、用途、材料、構造、設備、建造、メンテナンスと修繕、法規、速力など、全14章にて、わかりやすく解説。イラストや写真を豊富に掲載し、最新鋭の船舶技術も紹介する。
書籍データ
発行年月 | 2023年11月 |
判型 | B5 |
ページ数 | 216ページ |
定価 | 3,520円(税込) |
ISBNコード | 978-4-303-12130-3 |
概要
船の世界に魅せられて半世紀余り、仕事も趣味も船にどっぷりと浸かった人生を歩んできた。筆者を、この船の世界に誘ってくれた一冊が、上野喜一郎著の「船の知識」(海文堂)であった。手元にある初版は昭和37年発行だから、著者はまだ12歳であった。いつこの本を購入して読み始めたかは定かではないが、中学の高学年の頃であったと思う。
その後大学で船舶工学を学び、大学院を出てから大学で船舶・海洋工学の研究と教育に携わった。そして、これまで10冊余りの一般向けの船の啓蒙書を出版したが、いつか、この「船の知識」のような、船の建造や運航の専門家を目指す人々のための入門書を書きたいと思っていた。
新型コロナウイルス禍が全世界に猛威を振るう中、自宅での仕事が多くなった令和3年になって、一念発起して、海文堂に出版の相談したところ了解が得られ、本書の執筆にとりかかった。基本的構成は上野氏の「船の知識」に準じたものの、さすがに半世紀前に書かれた本だけに、骨格は残すもののほぼ全てを新規に書き直すことになった。それでも船の基本的な部分では不変の部分が多くあった。すなわち、古代から続く普遍の原理が、現代の船の土台にもなっていることが再確認できたが、反面、驚くほど船は進化もしていた。
初版の「船の知識」では、大型タンカーとして20万重量トンの「出光丸」が最大船として紹介され、コンテナ船、大型クルーズ客船、LNG船もまだ登場していない。そして、1970年代の2回のオイルショックによる油価格の高騰を受けて、船舶の性能は急速に向上した。また、舶用エンジンも、大気汚染対策としてのクリーン化、地球温暖化対策としてのグリーン化が求められて急速に進化している。船舶運航も様変わりしている。地球上のどこにいても自船の位置がGPSによって把握できるようになり、IT化・DX化の波が押し寄せていて自動運航船の開発も進んでいる。そうして進化した最新鋭の船舶技術の紹介も本書には含めることができた。
グローバル化が進む中、今でも、少ないエネルギーで大量の物資を運ぶという船舶の重要な役割は変わっていない。また在来型エネルギー資源の開発や輸送、各種の再生可能エネルギー資源の開発、水素やアンモニアといったグリーンエネルギーの世界的な供給にも船舶による輸送は欠かせない。このように、地球上の人々が安全で健全な生活を維持するための国連の目標であるSDGsの達成に、船舶は欠かせない要素のひとつである。
本書に接して、船舶の魅力に触れて、船の世界に飛び込んでくれる方が現れれば望外の幸せである。(「はじめに」より抜粋)
目次
第1章 船とは
(1)船という言葉
(2)船の技術的意義
(3)浮力の原理と効用
第2章 船の分類
(1)用途上の分類
(2)船体構造材料による分類
(3)船体の支持方法による分類
(4)大きさによる分類
(5)船体形状による分類
(6)推進方法による分類
(7)法規上の分類
(8)運航上形態による分類
(9)その他の分類
第3章 船の用途
3-1 純客船
3-2 貨客船
3-3 一般貨物船・コンテナ船
3-4 ばら積み貨物船
3-5 RORO貨物船
3-6 専用貨物船
3-7 特殊船
3-8 軍艦
第4章 船の材料
4-1 船体材料の歴史
4-2 アルミ合金船
4-3 FRP船
4-4 その他の新材料
4-5 船内を作る材料
第5章 船の形態
5-1 船の形
5-2 水面上の船体形状
5-3 船体マーク
5-4 水面下の船体形状
5-5 機関室の位置
5-6 上部構造物および船橋の位置
第6章 船の構造
6-1 船体強度
6-2 船体構造の造り方
6-3 船首形状と構造
6-4 船尾形状と舵
6-5 舵の構造
6-6 甲板
6-7 隔壁
6-8 タンク
6-9 機関室の構造
第7章 船の推進
7-1 船の動力源
7-2 推進機関
7-3 推進器
第8章 船の設備
8-1 概要
8-2 居住区施設
8-3 航海設備
8-4 通信設備
8-5 停泊設備
8-6 貨物設備
8-7 脱出・救命設備
8-8 防火・消防設備
第9章 船の建造
9-1 日本の造船の歴史
9-2 造船所の施設・設備
9-3 建造設備
9-4 船ができるまで
9-5 造船産業の特性
9-6 日本の造船業の変遷
9-7 世界の造船業
第10章 船のメンテナンスと修繕
10-1 腐食
10-2 物理的な損傷
10-3 海難救助
第11章 船の一生
(1)船の誕生
(2)登記と登録
(3)船級と検査
(4)安全検査
(5)船の寿命
(6)損傷と修理
(7)解撤
第12章 船の理論
12-1 船の強さ
12-2 船型開発
12-3 輸送効率とEEDI
12-4 実海域性能
12-5 操縦性
12-6 復原性
12-7 耐航性
12-8 振動
12-9 水密区画
第13章 船舶の法規
(1)国際法規
(2)国内法規
(3)船の税金と容積トン数
(4)総トン数と純トン数
(5)船の重さを表すトン数
(6)船の積み荷の重さを表すトン数
(7)満載喫水線
(8)航行区域
(9)漁船の従業制限
(10)最大搭載人員
(11)旗国による船舶検査
(12)検査の代行をする船級協会
第14章 船の速力
(1)船の速力の単位
(2)船の速力の計測法
(3)船の速力の種類
(4)速力記録
(5)ブルーリボン
参考文献
索引
プロフィール
池田 良穂(いけだ よしほ)
1950年北海道生まれ、港町、室蘭育ち。1973年大阪府立大学工学部船舶工学科卒業。1979年同大学大学院博士後期課程を修了し工学博士。同大学助手、講師、助教授、教授、工学研究科長を経て2015年定年退職、同大名誉教授。大阪公立大学客員教授。専門は船舶工学・海洋工学・クルーズ客船等。多数の学術論文、船舶に関する書籍を出版。雑誌、新聞等への寄稿も多い。趣味はシップ・ウォッチング、船に関する調査、乗船。年間40隻以上の客船に乗船している。