水質浄化マニュアル
技術と実例
長年、千葉県内での浄化施設設置にあたって指導等を行ってきた著者が、現場での経験を踏まえ、湖沼、河川および排水路の水質浄化技術について、豊富な事例とともに系統的にまとめた。焦眉の急が告げられている窒素およびりんの除去技術についても1章を割いて詳述。[2004年4月、3版発行]
書籍データ
発行年月 | 2001年9月 |
判型 | A5 |
ページ数 | 240ページ |
定価 | 3,520円(税込) |
ISBNコード | 978-4-303-58820-5 |
概要
近年、水辺は生活自然環境の重要な一部を担っているという認識のもとに、流域住民のみならず、国民全体の水域浄化に対する要望は、年々、強まりをみせている。しかし、水辺といえども、その水域が湖沼なのか、それとも河川あるいは排水路のいずれなのかによって、期待される内容もそれぞれに異なってくる。ひいてはそれら水域の浄化となると、一元的にはこと済まなくなってくる。
もとより、それぞれの水域には、背景の異なる地域特性があり、自ずと水質特性も異なっている。水域の浄化は、対象とする水域でのそれら特性を十分に熟慮し、最良の技術と手法を選択して実施に移されるべきである。
現在、各地の水域で稼働している、あるいは建設段階にある浄化施設を見聞きすると、中には、一体何を目的に、どのようにしようとしているのかまったく理解のできない施設や、また何を参考にして勘違いしたのか知るすべもないが、浄化にはほど遠い施設もみられる。
確かに、各地の多くの水域で“浄化”と声高らかに叫ばれているものの、一方では、参考となるような技術や手法に関して系統だった実務レベルでの解説書や指針書が少なく、実際には、ほとんど手にすることができないのが現状である。
数年前、著者らは千葉県の湖沼、河川および排水路のそれぞれにおいて実施されている種々さまざまな水質浄化方法の実施事例をとりまとめて上梓、そして幸にも多くの方々から好評をいただいた。これは、恐らく多くの事例と通常の情報ではさほど知り得なかった浄化施設の建設および維持管理の費用、さらには問題点などを実際の現場をとおして解りやすく1冊の本にとりまとめたところにあると思われる。この意味ではその事例一つ一つが完結した技術として十分に役立つものであったといえる。
しかし、日進月歩する浄化技術において、今後、さらに望まれることは浄化対象水域でどんな物質が、どのような形態で存在し、そしてそれをどのような技術や手法をもって、どの程度に浄化するべきかについて、手広く網羅した実務レベルでの指針書であるといえる。
このような状況に鑑み、著者はここ十数年の間、千葉県内での浄化施設設置にあたり、いろいろと指導等を行ってきた現場での経験を踏まえ、勢い本書にて水域の浄化技術について、実施事例を含めマニュアル風にとりまとめてみた。
本書は、海域を除き、水域を湖沼、河川および排水路に大きく分け、それぞれでの水質浄化技術を系統的にまとめると同時に、特に、今日、水域の浄化において焦眉の急が告げられている窒素およびりんの除去技術について、実用化での事例はきわめて少ないが、その緊急性から、紙面を少なからず割いて言及している。我田引水のきらいはあるが、願わくば、先に刊行した水質浄化の実施事例集と併せて、本書が実務レベルで水域浄化のマニュアル書として、広く関係者の方々に活用いただけるならば、幸いとするところである。(「まえがき」より)
目次
第1章 水域の汚濁と自浄・自濁作用
第2章 水質汚濁の現状と防止対策
2.1 水質汚濁の現状と原因
2.2 水質汚濁の防止対策と法的規制
第3章 生活排水の対策と現状
3.1 発生源対策
3.1.1 生活排水処理施設と性能
3.1.2 家庭内雑排水対策と効果
3.2 水域浄化対策
第4章 水域浄化の取り組みと現状
4.1 主要関係省
4.1.1 環境省(旧環境庁)
4.1.2 国土交通省(旧建設省)
4.2 地方公共団体―千葉県を例にして―
第5章 水域浄化の対象物質と目標
5.1 浄化の対象物質と目標
5.2 各水域の浄化対象物質とその存在形態
5.2.1 湖 沼
5.2.2 河 川
5.2.3 排水路
第6章 湖沼の浄化技術と事例
6.1 水生植物の植栽・回収
6.1.1 水生植物の種類と生活特性
6.1.2 浄化の原理と浄化に利用可能な水生植物
【事例1】手賀沼におけるホテイアオイの植栽・回収
【事例2】印旛沼におけるヒシ刈り取り
6.2 藻類抑制・除去(回収)
6.2.1 藻類の種類と特徴
6.2.2 浄化の原理と抑制・除去対象の藻類
【事例】手賀沼におけるアオコ回収
6.3 浄化用水導水
6.3.1 浄化の原理と実施課題
【事例】北千葉導水事業
6.4 浚 渫
6.4.1 底質の汚濁と防止対策
6.4.2 浚渫方法とその特性
6.4.3 浄化の原理と効果
【事例】手賀沼における浚渫
6.5 ばっ気(循環)
6.5.1 溶存酸素の垂直濃度分布と特性
6.5.2 浄化の原理とばっ気(循環)の方法
6.6 接触酸化
第7章 河川の浄化技術と事例
7.1 堰構築
7.1.1 浄化の原理
7.1.2 堰の種類と問題
7.2 薄層流
7.2.1 浄化の原理
7.2.2 浄化効果と問題
7.3 浄化用水導入
7.4 浚 渫
7.5 ばっ気
7.6 礫間接触酸化
【事例1】大堀川における礫間接触酸化浄化施設
【事例2】桑納川における礫間接触酸化浄化施設と土壌浸透浄化施設の併設
7.7 接触ろ材接触酸化
【事例】高根川接触酸化浄化施設
7.8 その他の浄化技術
第8章 排水路の浄化技術と事例
8.1 接触ろ材接触酸化
8.1.1 接触材, 接触ろ材およびろ材の用語
8.1.2 接触ろ材の特性と種類
8.1.3 接触ろ材を用いた浄化技術の原理
【事例1】Y市西幹線排水路接触酸化浄化施設(分離方式)
【事例2】人工芝充填浄化施設(直接方式)
【事例3】礫充填浄化施設(直接方式)
【事例4】木炭充填浄化施設(直接方式)
【事例5】休耕田を利用した波板ろ材充填浄化施設(分離方式)
【事例6】流動床式生物膜ろ過浄化施設(分離方式)
【事例7】その他の接触酸化浄化施設と全体のまとめ
8.2 湿地(アシ原)の活用
8.2.1 湿地の区分と定義
8.2.2 自然湿地の機能と特性
8.2.3 人工湿地の創出と水質浄化機能
8.3 植物の活用
8.3.1 水耕生物ろ過
8.3.2 リビングフィルター
8.3.3 バイオフィルター・システム
8.3.4 バイオジオフィルター
8.3.5 ヨシフィルター
8.3.6 その他
8.4 各種排水処理技術の活用
第9章 窒素およびりんの除去技術と事例
9.1 窒素の除去技術
9.1.1 硝化液循環法
【事例1】河川水を対象にした実験レベルでの窒素除去
【事例2】排水路における小規模レベルでの窒素除去
9.1.2 微生物固定化法
9.1.3 生物膜法
9.1.4 イオン交換法
9.2 りんの除去技術
9.2.1 嫌気・好気法
9.2.2 凝集沈殿法
【事例】大津川支流(逆井)りん除去施設
9.2.3 晶析法
9.2.4 鉄材浸漬法
【事例】鉄材を用いた排水路汚濁水中のりん除去
9.3 窒素およびりんの同時除去技術