暗号理論と代数学
(プラタンBOOKS)
公開鍵暗号とDES暗号について、最小限必要な基礎的な数学を中心に解説する。前半では初等整数論から素因数分解や有限体論などについて述べ暗号系については公開鍵暗号や暗号の完全秘密性に触れ、DES暗号やRSA暗号について解説。
[2005年4月、4版発行]
書籍データ
発行年月 | 1997年1月 |
判型 | A5 |
ページ数 | 152ページ |
定価 | 2,200円(税込) |
ISBNコード | 978-4-303-72330-9 |
概要
コンピュータソフトウェアの発達により、かなり複雑で抽象的な計算もコンピュータによって簡単にできるようになってきた。著者の専門分野である代数学においてもMAGMAやGAPというソフトウェアによって、ひと昔前は数カ月もかかった有限群の計算が、わずか数時間でできるようになった。こう考えると、もう数学の基礎など学ばなくても、コンピュータの操作と数式の立てかただけ覚えればよいように錯覚するが、コンピュータソフトウェアが既成の知識の単なる集大成であることを考えると、さらに知識を深め創造していくためには自分自身で考えていかざるをえないので、これとはまったく逆に論理的思考力を身につけることがますます重要になってくる。研究や実務の主要な部分に使われるソフトウェアが、単なるブラックボックスであったら、その研究の本質的な発展や効率的な実務の展開は望めないであろう。
コンピュータネットワークの急速な普及により、コンピュータ内部のデータの保護、安全で確実な電子通信システム、ネットワーク上の決裁に不可欠な信頼性の高い電子マネーなどの実現に向けて、暗号理論のより一層の発達が強く望まれている。このようにネットワーク社会の実現には暗号の世界標準が欠かせないので、それを提供する立場にあることは、それだけで絶対的な優位を持つことになる。このことからも暗号に関する知識は、人や物のみではなく情報までもが自由にしかも瞬時に移動流通してしまう、21世紀のネットワーク社会の常識といえるだろう。個人のプライバシーについても、その保護を上から与えられることを期待するのと、自分自身でできる限り守ろうとするのとでは、どちらが良いのだろうか。
本書は著者の山形大学理学部数理科学科における講義を基にしてまとめたもので、公開鍵暗号とDES暗号という目的も性質も異なる2つの基本的な暗号系について、最小限必要な基礎的な数学を中心に据えて解説したものである。第1章では公開鍵暗号の理解に必要な初等整数論から素因数分解やオイラーの定理について触れ、第2章では暗号理論の教科書では通常あまり登場しない群論について解説している。これは多くの暗号系が抽象的には単なる群の集合への作用として記述できるので触れてみた。第3章は有限体論で、離散対数や平方剰余記号などの理解に必要な概念である。この章では簡単な素数判定法についても紹介した。暗号系については最後の第4章で解説され、初めに形式的な暗号系を定義し、公開鍵暗号や暗号の完全秘密性などに触れた後、DES暗号やRSA暗号などについて解説している。
これらの解説は理工系学生や数理科学に興味を持つ高校生や一般の読者を対象にしている。暗号ソフトウェアを使用する際にそれを単なるブラックボックスとして利用するか、あるいはある程度内容について理解した上で使用するかによって、システムの運用とその安全性の確保にかなりの差が出ると思われる。(「はじめに」より)
目次
第1章 初等整数論
1.1 準 備
1.2 アルキメデスの公理
1.3 公約数および最大公約数
1.4 公倍数および最小公倍数
1.5 初等整数論の基本定理
1.6 合同式
1.7 オイラーの定理
第2章 群 論
2.1 群の基本的性質
2.2 群の集合への作用
第3章 有限体論
3.1 環
3.2 剰余環
3.3 可換環
3.4 有限次元ベクトル空間
3.5 素体と標数
3.6 有限体
3.7 素数判定法
第4章 暗号系について
4.1 暗号系と暗号の実例
4.2 公開鍵暗号系
4.3 代数的暗号系
4.4 完全守秘性
4.5 DES暗号
4.6 RSA暗号
4.7 ElGamal暗号