高度物流社会と法
船舶、鉄道、航空機、トラックなどによる輸送だけでなく、宅配便やコンビニ、郵便配達など、私たちに身近な物流を取りあげ、普段利用し、消費している「モノ」がどのように輸送・荷役・保管されているかに焦点を絞って関係法令を紹介するとともに、消費者の目線から見た最先端の物流をビジネス論的に解説する。
書籍データ
発行年月 | 2014年11月 |
判型 | A5 |
ページ数 | 264ページ |
定価 | 2,860円(税込) |
ISBNコード | 978-4-303-16405-8 |
概要
先進国と開発途上国には物流に大きな違いがあり、開発途上国の物流は先進国の物流と比較して大きく遅れています。言い換えれば、物流の発展が遅れているために経済が発展せず、開発途上国の地位にあると言えます。とくに、アジアを旅行された方はお気づきと思いますが、アジアの国々で使われているトラックの型式が旧く、洗車されていないために汚く、過積載が常態化しています。アジアの国々では都市部の旅客輸送部門は比較的発展していますが、それと比較すると物流部門では発展が遅れ、その要因の一つに物流関係法令の未整備があります。
先進国では物流関係法令が整備され、その下で物流が公正かつ秩序正しい法治型物流として発展しています。たとえば、本書の内容に関係する主要な現行関係法令を本書巻末に掲出していますが、その数は非常に多くあります。体系的に整備された法令によって、安全で正確かつ確実な物流が社会の重要なインフラになっています。しかし、開発途上国では関係法令の整備が遅れ、不公正で無秩序な人治型物流が支配し、人治社会に内在する汚職などによって物流の発展が阻害されています。つまり、先進国と開発途上国での物流の発展レベルの違いは技術格差によるものではなく、制度の違い、社会体制の違いによるものです。
ただし、国際航路に就航する航空機や船舶による貨物輸送については、条約や協定によって国際的にほぼ統一されているため、この分野では先進国と開発途上国の間に物流システムや技術に関して大きな違いはありません。大きな違いが現れているのが国内物流です。
他方、先進国の物流は高度にシステム化され、物流の発展した社会は高度物流社会と呼ばれています。主要な先進国の中で物流が最も発展し進歩している国が日本で、日本で構築されている物流システムは世界一進んでいると言われ、そのため最先端の物流システムが技術協力・支援という形で海外に輸出されています。また、先進国では高度物流社会が進歩・発展を続け、高度物流社会から高度物流無人化社会へと変化しつつあります。たとえば、自動車のロボット化技術(無人運転)の開発が進み、軍事部門では無人航空機が実戦配備され、インターネット小売最大手の米アマゾン・ドット・コムは小型無人ヘリコプターを利用した商品の配送を計画しています。日本では、すでにフェリーやRORO船によるトレーラ(シャーシ)の無人航送が行われ、産業用無人ヘリは農薬散布などで普及し、東京電力福島第一原子力発電所では日本の無人重機が使われています。
他方、現在の多くの日本人は高度にシステム化された物流の存在が当たり前と考えています。「コンビニに行けばいつでもお弁当がある」「電気・ガス・水道をいつでも使える」「新聞は毎朝配達される」ことに疑問を持つ人は存在せず、当たり前のことと思っています。コンビニのお弁当も、電気・ガス・水道も、新聞も、私たちの見えない所で高度にシステム化された物流が構築されているからこそ当たり前になっているのです。宅配便は離島など一部の地域を除いて低価格で翌日には荷物を届け、海外からは毎日多くのエネルギー資源や食料、それに石炭や鉄鉱石などの原材料が日本に運ばれてきています。
物流は、私たちの生活や企業活動、それに日本経済や国際経済を支え、そのため「縁の下の力持ち」と呼ばれていますが、その実態については知る人はほとんどいません。というよりも、当たり前だから興味・関心がないのです。2013年6月25日に閣議決定された「総合物流施策大綱(2013-2017)」は、「物流は、農業・水産業等の生産者、メーカー、卸売、小売、消費者、物流事業者と多様な担い手が関与するプロセスであり、産業競争力の強化や豊かな国民生活の実現を支える、経済社会にとって不可欠の構成要素である。物流の効率化は、物流に直接携わる関係者にとってはもちろんのこと、企業、一般国民、ひいては我が国全体にとって重要な課題である」としていますが、「諸外国と比較して高度な物流サービスが求められる一方で、物流に関する我が国社会全体の認識は低い状況にある」としています。
そのため、本書は宅配便やコンビニ、郵便配達や新聞配達など私たちに身近な物流を取りあげ、私たちが普段使っている「モノ」や消費している「モノ」がどのように輸送・荷役・保管されているかに焦点を絞って関係する法令を紹介するとともに、消費者の目線から見た物流を中心に据えて最先端の物流をビジネス論的に解説しています。本書を通して、物流に興味・関心を持って頂ければ幸いです。(「まえがき」より抜粋)
目次
序章 高度物流社会とビジネス
1 物流社会の仕組み
2 輸送機関の大型化と高速化
3 荷役と保管の省力化
第1章 宅配便と宅配車
1.1 宅配便の仕組みと宅配車
1.2 急送貨物と自転車便
1.3 引越貨物と引越便
第2章 コンビニ物流と廃棄物流
2.1 コンビニと物流
2.2 食品の輸送と特殊車両
2.3 廃棄物の輸送と特殊車両
第3章 郵便と新聞の配達システム
3.1 郵便と新聞の宅配
3.2 電気とガスの宅配
3.3 配送サービスと宅配
第4章 航空貨物輸送と航空機
4.1 航空貨物輸送と貨物機
4.2 航空貨物と荷役機械
4.3 空港と地上支援車両
第5章 鉄道貨物輸送と貨物列車
5.1 鉄道貨物輸送と機関車
5.2 コンテナ列車と荷役
5.3 バルク列車と荷役
第6章 道路貨物輸送とトラック
6.1 平ボディ車と荷役
6.2 バンボディ車と荷役
6.3 トラクタとトレーラ
第7章 道路バルク輸送と専用車
7.1 道路バルク輸送と荷役
7.2 タンクローリーと荷役
7.3 バルクローリーと荷役
第8章 海上コンテナ輸送と荷役
8.1 海上コンテナ輸送とコンテナ船
8.2 コンテナターミナルと荷役
8.3 海上コンテナの国際規格
第9章 海上バルク輸送と荷役
9.1 バルク船と荷役
9.2 RORO船と荷役
9.3 バージと荷役
第10章 企業物流と特殊施設
10.1 専用鉄道と専用自動車道
10.2 インクラインと索道
10.3 構内物流と特殊施設
第11章 ちょっと変わった物流
11.1 自衛隊と移動販売
11.2 手荷物の輸送と保管
11.3 アドトラックと情報
第12章 アジアの物流
12.1 アジアの自転車貨物輸送
12.2 アジアのバイク貨物輸送
12.3 アジアの宅配便
補章 動力と運搬具の歴史
1 動力としての人と動物
2 車輪と運搬具
3 動力と運搬具との一体化