感性イノベーション
―感性をビジネスに活かす
「感性工学」の提唱者であり第一人者である著者がこれまで手掛けてきた数々のシステムや商品開発のプロセスを紹介。日産、マツダ、トヨタ、ボルボ、富士重工、三菱電機、天満屋、西武百貨店、サントリー、シャープ、コマツ、ワコール、パナソニック電工、ボーイングなどの実例は、あらゆる業種のビジネスマンの参考になる。
書籍データ
発行年月 | 2014年6月 |
判型 | 四六 |
ページ数 | 160ページ |
定価 | 1,540円(税込) |
ISBNコード | 978-4-303-72389-7 |
概要
人の気持ちが分かって手に取るように対応してくれる人のことを、「あの人は感性が分かる人」と評価することがあります。そういった人がサービスマンである場合には、顧客はそのお店を満足して利用します。この場合、相手のスタッフが顧客の気持ちを上手に理解して顧客を満足させるように対応する、つまりスタッフ側に「感性」があると理解されます。感性は誰でも持てる感受性のことであり、感受性とは顧客がどうしたいのかを、目の方向や顔の表情、話す言葉などから悟る理解力のことです。この感受性、すなわち感性は訓練によって誰でも身に付けることが可能ですが、他方、顧客の感性を探ってデータ化し、それを分析することで顧客に喜ばれる新製品を開発することも可能です。この手法を「感性工学」といいます。
私は感性工学を1970年に思い付き、それ以来、感性工学の方法論の樹立や新製品開発を50種類以上も世の中に出し、今では感性工学は世界中に広がり、多くの国々で感性工学の研究が盛んです。感性工学は顧客の感性の分析から新製品を開発する科学的手法ですが、顧客の感性のデータを足場にしているので、新製品が違和感なく顧客に歓迎され、利益を生む商品となります。また、来店される顧客のデータから、お客様に好まれる商品陳列や、どのような対応がお客様に喜ばれるかを分析することも可能です。このようなサービスイノベーションの方向性を探るのにも感性分析は役立ちます。
感性を持っている人は工場の中にもいます。つまり工場の従業員です。どのような扱いが彼らを喜ばせるか、やる気を持って働いてくれるか、また能率が上がらない職場あるいは事故が発生する職場には、従業員の感性にそぐわない作業方法があり、作業環境にも問題があります。その課題を感性から考えて改良すると職場がよくなります。この課題は人間工学でもありますが、人間工学と感性工学との両面から分析すると、工程が楽で作業しやすい、そして生産性が高くなる職場に変わります。IE的改善とは一味違った職場改善が実現できます。
作業者ないし社員を全体で考え。働く人々の全体の感性を考慮すると、組織論と異なる組織形態を生み出すことも可能です。そのような組織は、やる気のある意思決定の速い組織に生まれ変わります。感性を活用することで新しい組織開発が可能となります。この思想と方法論を使用すれば、小さな社会のシティ設計も可能です。おそらく住民同士が強い絆で結ばれた明るくて住みよい社会となることでしょう。
私は最初は心理学を学び、1963年に文学博士号(理論心理学)を取得し、大学院時代に医学と工学を学びました。医学では特に大脳生理学を重点にアルツハイマー病の病理学的研究を行いました。1967年にはミシガン大学交通研究所発足に際して人間工学者として招聘を受け、GM、フォード、クライスラーと共同研究を行い、当時の最先端の自動車技術を研究しました。このおかげで、帰国後、当時の通産省から依頼があり、「自動車人間工学研究委員会」の人間工学担当者として、トヨタ、日産自動車、ホンダ、三菱自動車、マツダなど、我が国の自動車産業を世界レベルまで発展させる事業に取り組みました。その後、新日鉄、住友金属工業、三菱重工業、コマツ、松下電器産業、松下電工、クボタ、ダイキン、日立、東芝など、数知れない多くの日本企業の生産工学や品質管理を指導する役割を実施しました。
また1970年代に「感性工学」を創設し、多くの企業の新製品開発のお手伝いを果たしました。特に松下電工(現在のパナソニック電工)では屋根瓦、樋、サイディング、風呂、キッチン、トイレなど、ほとんどの家庭商品の開発の指導を行いました。この感性工学は世界的に広がり、「Kansei Engineering」という名の和製英語が全世界に拡がっております。
本書では、これらを含めた私の50年間の企業指導と感性分析を応用しての商品開発や、当時としては珍しいサービスイノベーションの事例のお話を致します。皆さんがご存知の内容もありますし、使用されている商品の中で新開発の経緯を知って驚かれる内容もあると思います。感性という一見あやふやな存在と思われていたものが、科学的に処理され多面的な応用が利くものだと理解されることでしょう。
本書で紹介している内容はすべて実話であり、取り上げた企業は日産自動車、マツダ、トヨタ、ボルボ、富士重工業、三菱電機、天満屋百貨店、西武百貨店、サントリー、NEC、シャープ、コマツ、ワコール、松下電工(パナソニック電工)、ボーイングなどです。
最後に、人間を見る目を養うための感性の育て方について解説をいたします。本書が多くの企業で社員の感性教育に役立つことを祈ります。(「はじめに」より)
目次
1. 感性とは
誰でも感性を持っている
感性を探ろう
感性はいろいろな形や姿で表出される
2. 感性をモノづくりに活かす
ドアレス艤装ラインの誕生
人間中心の生産ライン
セル生産システム
3. 感性とサービスイノベーション
天満屋広島店の組織変革
西武百貨店のショップマスター制度
加賀屋のサービスイノベーション
4. 感性と組織管理
サントリーのアメーバ組織
ミニカンパニーの思想
やる気が生まれる三菱電機の仕組み
成果を生む小集団活動
白竜湖カントリークラブの活性化
5. 感性を商品開発に活かす
感性を商品開発に活かす
顧客が手で触れようとする衝動
ヒューマンリビング・システム
シャープの新型冷蔵庫開発
ワコールのグッドアップブラ
コマツのヒット商品
顧客の目線で開発した手すり
楽しく用が足せるトイレ
感性でブランド名を決める
褥瘡は治せる
ボーイング787のインテリアデザイン
6. 感性工学の世界戦略
韓国との交流
欧米との交流
アジアでの育成
7. 感性を育てるには
人間工学的スケールを身に付けること
好き嫌いの感情を捨てること
興味を広く持つこと
感性測定用の長い緻密なスケールを持つこと
時には豪華で美味しいものを食べること
美術館や博物館へ通うこと